バイト中の日常
2013/08/24改稿。
書店名を追加です。
バイト先はスーパーをさらに西へ向かった先にある小規模の書店『清水書店』。春休み中なのでシフトは多めに入れてある。今日は十時から休憩挟んで十八時だ。
「まあ適度にがんばるか」
いつものように本棚に本を並べ、古い本、売れない本を回収していく。そして新刊、話題のある本を本棚下に一目で表紙が見えるように並べる。
――これが意外ときつい。積み重なった本は結構重く、力仕事であると感じさせられる。普段運動しない俺が、一人暮らしでも体型が変わらない理由は、このバイトにあるのかもしれない。
今日のレジは主に赤穂さんが担当している。しかし、客の入り具合によって人手が足りないと判断したときは店長の指示で俺も手伝いに回る。もちろん自分で判断して手伝いに行くときもある。ここでバイトを始めて二年、慣れたものだ。
午前中、古い週刊誌を回収している最中、後ろから声をかけられた。
「やっほー、とーやっま君! ちょっと頼み事があるんだよねー、時間……いいかな?」
とても軽いノリで話しかけてきたのは友達でもバイト仲間でも、はたまたその辺のDQNでもない。
この書店の店長――清水桜花さんだ。
身長は俺より低く、百六十センチくらいで黒髪ツインテール。口調は明るく、軽い。敬語知ってるの? ――と思うくらいだ。もちろんお客さん相手だと敬語で話してはいるけど、その光景に違和感すら感じる。
「いいですよ。回収も一段落しそうですから」
店長は満面の笑みを浮かべる。
「ならちょうどよかったー! 実は今さっきね、遅れていた新刊がようやく届いたの。人気がある漫画だから早く並べてね! ……よしっ、決まったなら善は急げ、新刊の待つ場所へ、ゴー!」
すぐさま店長に連れられ、次の仕事に向かった。
それにしても店長を見るたび毎回――いったい何歳なんだろうか? と思ってしまう。噂では二十半ば位らしいけど、外見は女子大生――いやむしろ高校生、まれに中学生に見えることもある。
別に幼児体型とかでもないのになぁ。やっぱり無垢な表情、そしてあの天真爛漫さがそう思わせてるのか。
ただ明るい性格故に困ることがあるのも事実……。
この前も――
「なんかバイトの人たちと距離がある気がする」
――とつぶやいてたと思えば、
「親密度を高めるために、私のことは『桜ちゃん』って愛称で呼んで!」
――などと突拍子もないことをバイト、社員全員にお願いしていた。……が、結果は惨敗。すべての社員と(俺を含める)バイトのほとんどが苦笑いで断った。
店長は残念そうにしてたけど、こちらの気持ちも考えて欲しい。
さすがに恥ずかしいし、たぶん店長の方が年上になるんだから申し訳ないとも思う。
『自分の立場を分かってください』――社員全員の思いである。
しかし、結局この二年の間、店長は外見、内面ともにまったく変化が見られない。
まあ成長していないのは俺も同じ気がするからあまり人のことを言わないようにするか。人間そうそう変われるものじゃないさ。
……ただこの前赤穂さんから「戸山先輩は変わっていますね」と言われたんだよなー。
赤穂さんがここのバイトに入ったのが半年前。たった半年だけど自分でも気付かないところで何らかの変化があるんだろうか?
休憩時間、来る途中のコンビニで買ったおにぎりを食べていると、赤穂さんがスタッフルームに入ってきた。普段と同様にバイトの制服も手の甲まで袖があり、サイズが合っていない。
……これでも一番小さいサイズなんだろう。
「赤穂さんも休憩?」
「あっ、はい」
心なしか赤穂さんは疲れているようだ。人気の新刊発売と言うことで確かにいつもより忙しかった。俺も本棚の整理を後回しにしてレジに回る必要があったほどだ。
「あれ? 昼飯は?」
「あの……ちょっと忘れてきてしまいまして……。あっ、でも大丈夫ですよ。ダ、ダイエット中ですから!」
どう見てもやせる必要がないように見える。
『食べないと大きくなれないぞ』とは言わない。この年じゃどう考えてもいまさらすぎるし。
「無理しなくていいって。ほら、やるよ」
俺はおにぎりのついでに、つい買ってしまったカロリー満足(栄養補助食品のクッキー)を差し出す。
「わ、悪いですよ! それにこれ、先輩が食べてるのより良い物……」
「気にするなって。まだ昼からも仕事あるんだし、がんばってもらわないと」
自分がレジに回りたくないのが本心。
接客ってどうも苦手なんだよなぁ。
「そ、それじゃ、ありがたくいただきます」
そう言ってさくさくと食べ始める姿は小さな体、小さな口と相まってハムスターのようだ。
かわいいなー。きっと俺はこの光景を見るために余分な買い物をしたんだろう。
とはいえ二本しか入っていないのですぐ食べ終えてしまった。
幸せの視聴時間、三分程。――十分にあげた価値がある。
俺と赤穂さんの両方が食べ終わり、いつもどおり雑談へ移ろうとした。
「そういや、昨日言ってた悩みって――」
「うわああああ」
急に外から叫び声が聞こえてくる。普通なら即座に何があったか見に行くかもしれないけど、俺たちは気にしない。
「またかー」
「またですね」
こんな小さな本屋の前で起こる事件なんて決まっているようなものだからだ。
「休憩はもう終わりかな」
「休んでいてもいいでしょうけど、少なくともこの部屋からは退散しなきゃいけませんよね」
スタッフルームの扉が開く。そこには店長と見知らぬ青年が立っていた。




