共同生活の始まり
「考えているところ悪いがちょっといいか?」
黙り込んでいるルナに尋ねる。
「うるさいからちょっと黙ってて」
……えー。ちょっとっていつまで?
仕方なく黙る。
…………。
………………。
「あーもう! 悪いと思っても少しぐらい意見を貫きなさいよ! これだから人間は……」
もういったいどうしたらいいのか……。
とりあえず聞いてもいいってことだよな。
「いやちょっと大事なこと聞き忘れてると思ってさ・・今日から先どこに住む気?」
「えっ、しばらくは他のどこか空いている部屋にしようと思うんだけど」
『当り前でしょ』とでも言うようにルナは答える。
あっ、そうなんだ……もしかすると二人きりで過ごすというドキドキした夜になるかと少しは期待したのに。ちょっと残念。
「ふーん、じゃあどの部屋にするんだ? 確か隣はもう住んでいる人がいたはず。すれ違うくらいだから顔は覚えてないけど」
隣といっても俺の部屋は角部屋だから一つしかない。
「ふーん、じゃあ隣は無理ね。さらに隣か真上の部屋は?」
行動範囲的にそれくらいが限界か。
「二階の住人までは知らん。でも確か二つとなりは空いてたと思う」
「じゃあそこで決まりね。なら戸山、今すぐ大家のところに行ってそこ借りてきて」
…………え?
一瞬ルナの言っている意味がわからなかった。
「それって賃貸契約を結ぶという意味でございますか!?」
混乱してよくわからない敬語になってしまう。
「決まってるじゃない! 鍵もらわないと入れないでしょうが!」
「何で俺が借りるんだよ! 二部屋分も払えるか!」
「さっきお金に困ってないって言ってたじゃない!」
「普通に生活する分には、だ。同じアパートに部屋を二つ借りる学生がどこにいる」
「ほらー、こ、こ、に♪」
ルナが甘えた声で俺を指差す。むぅ――不覚にもかわいいと思ってしまった。
「……っ、ダメなものはダメだ! 俺の部屋じゃだめなのか?」
「嫌よ! なんで戸山と一緒の部屋に泊まらなきゃいけないの」
そんな嫌そうな顔で拒否らなくても……。
「とはいえ二部屋なんか絶対無理だからな。学費払えなくなるし、今の願いだって叶えられなくなるぞ」
「くぅ……」
今の言葉にルナはたじろぐ。そのまま反論を言えずに独り言をとつぶやき始めた。
「一年だけじゃなく一生になる可能性も……? そんなの絶対に避けないと……。でもここに泊らなければ野宿……ならいっそのこと戸山を追い出して……」
ちょっと物騒な一言が聞こえてきた気がする。……少しくらい譲歩してもいいかな。
「ベッドくらいは貸してやるって。それに何も手は出さないから」
出さないというよりは臆病なだけだけど。というかこの一言って逆に手を出すように聞こえちゃうか? もしかすると警戒してしまうかも――。
「……ほんと? ……なら仕方ないわ。ここで我慢してあげる!」
――結構素直だった。それに我慢するといっている割にはホッと安堵しているように見える。口では強がっているけど俺を追い出す力なんてなかったんじゃないだろうか。
さて、話もまとまったことだしネットでもするかな。
俺はいつものように動画やら掲示板やら見始める。
――あっ、そうだ。
「漫画とか小説とかは本棚にあるから暇なら読んでいてくれ」
一言だけルナに伝えておく。
……うーむ、女性と二人きり、こんなんでいいのだろうか。……わからん。
まあ気軽に話せる状態ではないんだけどさ。
「別にいい、少し考え事があるから」
ルナはベッドに腰掛けたまま悩み始めた。
まあいっか。ルナも忙しいみたいだし、自分のしたいことしよう。
俺はネットの世界を楽しむことにした。
途中「うーん」とか「えーと」とかルナの悩む声が聞こえてきたけど、俺の気を引こうとでもしていたか。ただ独り言にしてはちょっと大き過ぎたような気も……。まあ五分もしないうちにふてくされたように漫画を読み始めたから考え事はまとまらなかったんだろう。
…………。
ゆったりとした時間も過ぎ、気づけば日付が変わっていた。
「そろそろ寝るかー。今日はいろいろあって疲れた。――おっとその前に風呂だけ入らないと」
ふとベッドのほうを見る。ルナはすでに寝息を立てていた。
「電気消してたほうがよかったかな」
小声でつぶやく。
よしっ――思ったら即行動だ。真っ暗にすると周りが見えなくなるから豆電球だけつけておくか。
シャワーだけさっと浴びる。
男の風呂シーンなんて誰得なので割愛――って誰に対して言ってるのだろう……気にしちゃだめか。
風呂から上がった俺は机を横にずらし、押入れから毛布を取り出す。明日はバイトだから目覚まし時計をセット。座椅子を枕代わりにして寝る準備完了。
床にカーペットを敷いているとはいえやっぱり硬いか。
ベッドは一日交代にしようかな――なんて思いながら眠りについた。
――新たな日常に内心ワクワクしてることはルナには内緒だ。




