すがった先は神じゃなくて悪魔だった
ゆっくり不定期更新になります。
「やばい!」
俺、戸山一人は非常に焦っていた。心臓は高鳴り、家に向かい走る途中何度も足がもつれ転んだ。
いままでこんなことはなかった。何でもそつなく物事をこなし、受験もそれほど苦労することなく国立の大学に入れた。友達も多いとはいえないが仲違いすることなく、嫌われたこともない(と思う)。別にこれといって欲がないのでお金に困ることもない。
俺は他の人と比べて非常に悠々とした人生を歩んできたつもりだ。そのせいか黒猫が前を通り過ぎようが、雨に急に降られようが、財布(普段一万円も入ってないけど)を落とそうが『まあこんな日もあるか』と楽観的に思うことができていた。……なのに!
俺は何かにすがりたい。助けを求めたい。
もしここで怪しい勧誘に『アナタハ、カミヲシンジマスカ?』なんて言われたら、
「どんな神でもオールオーケーだ。だからヘルプミー!」
と即座に回答していただろう。しかし幸か不幸かそんな勧誘など受けることなく、気付けば一人暮らしをしているアパートにたどり着いてしまってた。
こんな悩みをぶつけれる友達なんていない。親に相談なんてもってのほかだ。
……となるとあれしかない。部屋の中央にたたずんでいる現在の俺の一番の友。
――そうパソコンだ。
いつもとてもお世話になっている。わからないことを聞けばすぐ答えが返ってくる優れたやつだ。
「お前がいてくれて本当に良かったよ」
俺は検索画面を開く。
よし、今の思いのたけをこいつにぶつけよう。
『助けてくれ 後がない』……検索。
すると一番上にあるサイトが選び出される。
「なやめるあなたへ」
何も考えずにそのサイトをクリックする。そこには怪しいうたい文句が描かれていた。
まよえるものたちよ、当サイトへようこそ
その悩み取り除いてあげましょう
その願いかなえてあげましょう
儀式に必要なものは生肉、ワイン、あなたの血
それらを前に願いなさい
そして誓いなさい、これらを捧げると
「なんだこれ?」
一瞬戸惑ったけど、もう突き進むだけ。ウイルスソフトも完備してるしたぶん大丈夫だろう。
「まあいいさ、助けてくれるなら神でもオカルトでも」
冷蔵庫から生肉(とりムネ肉百グラム58円)、ワイン(チューハイワイン味)を取り出す。えーと血は……転んだ拍子にすりむいて血がついたこのジーンズでいいか。
取り出した3点をパソコンの横に置く。そして祈った。
「それらを捧げます。これでどうか俺に救いを。今の状況からの脱却を!」
…………。
やっぱりただのおまじないか。
部屋は静まり返っている。
「いやまだ検索の一つ目! 次だ次!」
パソコンのマウスに手をかけたそのとき。
「? ……うわっ!」
目の前の画面から不確かな光のようなものが発せられた。光といっても照らし出すような明るさじゃない。むしろ引き寄せられるような暗い光。その光は徐々に人の姿となり、一人(一匹?)の女性を形作っていく。宙に浮いている姿とその黒々とした雰囲気は決して良いやつとは思えない。
…………。
俺はしばらく目を離せなかった。その姿は非常に妖艶で魅惑的だったからだ。鮮血のように赤い髪は短めに整えられ、すらっとした手足はやさしく扱わないと折れてしまいそうだ。その一方で力強い瞳が人間とは何か違う上位の存在を感じさせられる。
ただ一つ欠点を言うなら……まあ胸は小さいかな。
「へー、今回の依頼者って君?」
若い女性のアルト声が部屋に響く。
「君の願いは何? その切羽詰ったように見える顔。親友にでも裏切られたの? 彼女にでも逃げられたの? 殺したいほどうらむようなやつでもできたの? まあなんでもいいけど。仕返しなら残虐にしてあげる。女なら好きになるよう魅了してあげる。殺人なら相手に恐怖を与え続けた後殺してあげる。さあ君の望みはどれ?」
悪魔と思われる女性は俺に微笑む。
まあ神でも悪魔でもなんでもいい。この状況の打開策がすぐそこにあるのなら俺はそれにすがるしかない。
「俺の望みは……一つだ」
「ふーん、それは手っ取り早くて助かるな。たまにいろんな望みを言うひともいてねー。まあそれでも最後まで付き合ってあげるんだけど……それなりの報酬と引き換えにね……。そ、れ、でその望みって?」
俺は意を決して願いを告げる。
「大学の単位が足りないんだ! このままじゃ次の学年に上がれない。次の追試、なんとか乗り切り、俺を進級させてくれ!」