人の不幸を笑う女
僕のオフィスには”人の不幸を笑う女”がいる
その女性はシングルマザーで 気が強くて
凛とした背筋がとても美しく 僕の気をそそる
僕の失恋話をどう嗅ぎ付けたのか その女性は
目が合うといつも笑う 人の不幸を笑っているんだ
ついこの間の飲み会の席で 偶然隣り合わせ
嫌な予感が先行する やはりその女性が仕掛けた
”なんて云って断られたの?”余りに唐突で
言い訳がましく遠まわしに言葉選ぶ僕に
”だからダメなのよ あなた!”って 笑っていた
人の不幸はそんなにも可笑しい? 心で泣いた
どんなに精一杯でも 流されてしまうことだってあるさ
強いあなたには分からないだろうけど
次第に酒の力に負けていく僕は その女性を見た
すこし紅く染まった横顔に つい見とれていた
ああ このひとは真っ直ぐな恋をするんだろうな
シングルの理由を どうしても訊きたくて
その勢いで僕は 耳元でぽつりと囁いた
”あなたには関係ないこと・・・”一撃で返された
それっきり二人 会話が途切れてしまった
歪んだように見えるこの部屋で 酔いが醒めた
帰り際 信号待ちのその女性の隣で
反省文を読むかのように 湿った声で謝った
人の不幸はそんなにも可笑しい? 僕は思った
あなたの抱えてるものの中に不幸ってあるのかな
人に言えない哀しみがあるのかな・・・
翌日のその女性は いつものようにシャンとしてて
夕べの僕の失態を気にもしない素振り
社内メールを確認したその時 意外が飛び込んだ
”私の不幸を笑ったでしょ!”その女性は続ける
”今度ゆっくりお話ししましょ 私でよければ”
僕のオフィスには”人の不幸を笑う女”がいた
その女性はシングルマザーで 気が強くて
凛とした背筋がとても美しく 僕の気をそそる
僕の失恋話に微笑んでくれる その女性は
人の不幸を救う 女神だったことを知るんだ