不老不死の思い出話
不老不死になって後悔した男。
家族や恋人、知り合いに置いて逝かれる恐怖と寂しさ。
けれど、人間以外にもちゃんと生き物はいるのです。
ちょっとグロい?かもです。
最後は暗いので注意。
大丈夫な方はどうぞ。
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有限が羨ましい。
有限=終わりがあるという事だから。
先が見えるという事だから。
“死ねる”という事だから。
何故、昔の私は[不老不死]を羨んで望んでいたのだろうか。
そんなもんを探さなければ。
そうなろうと思わなければ。
冒険に出かけなければ。
方法を見つけなければ。
後悔先に立たず。
希望なんかあるはずがない。
この孤独を埋められる何かがあるはずがない。
寂しい、未来が恐い。
そう思いながら明日を震えて待っていた。
――だが、それももう懐かしい思い出に変わっている。
聞いてくれるかい?
私の思い出話を。
家族も恋人、知り合いの人間は数万年前に寿命で死んだ。
その時に愚かな私は気づいた。
私は皆と共にいられない。
永遠に私は独りぼっちだと。
子供が作れなかったのがせめてもの幸いだった。
何故なら、子供が私のこの苦しみを体験しなくて済むから。
それだけは神に感謝している。
恋人の葬儀を終えた翌日。
私の噂を聞き付けた研究者が現れたが、恐くて逃げた。
あの人数とあの顔とあの目が、人を見る目ではなかった。
今でも鮮明に思い出せる。
一種のトラウマだ。
荷物を纏めて逃げても他の村へは行かず、森の奥へ走った。
魔獣という凶暴な生き物と何度も出くわした。
死ぬと直感した。
魔獣の容赦ない一撃が私の体に打ち込まれた。
…だが、大怪我を負う致命傷が一瞬で癒えてしまった。
思わずお互いが固まる。
私は更に絶望した。
自殺をしようとは思わなかったので、あの時初めて知った。
改めて思い知る。
私の体はもう“人ではない”と。
それからは人が絶対に踏み入らない場所で生活したな。
此処のような場所で。
最初は海に沈んでみた。
呼吸が出来なければ体がもたないだろうと考えたから。
しかし、私の体はいつの間にか酸素が要らなくなっていた。
その頃からあまり動揺しなくなって、ついでに食料の魚を捕って小屋に帰ったな。
ある日、沖で貝を採っていると、後ろに巨大な魚が現れた。
岩のように大きい魚だ。
唖然としている間に魚に飲み込まれてしまったよ。
しかし、その魚は私を食べようとする様子はなく、私を何処かに案内しているみたいだった。
だから、携刀ではい出るのは止めた。
案の定、魚が口を開いた先に誰かいた。
上が人間、下が魚の体の半魚人の少女が泣いていた。
金髪のとても可愛らしい少女だった。
聞けば大切な宝物を意地悪な貝に奪われたらしい。
案内された先の貝を携刀で脅すとアッサリ返してくれたよ。
少女も魚達もとても喜んでな、沢山の財宝をくれると言ってくれたが、断った。
財宝に興味ないから。
その代わり、「友達になってくれ」と私が頼むと酷く喜んだ。
その少女は今は成人になって、結婚して、海の城の女王をやっている。
少女の頃と比べると、本当見違えるほど美人になった。
絶世の美女というのは彼女の事だろう。
たまに海の城に行くと、王様や彼女の父親に酒に無理矢理付き合わされて大変だよ。
元気そうで何よりだが。
マグマに飛び込んだ事もある。
その時は体が溶けて、やっと死ねると思って浮かれた。
だが、ものの数秒で溶けた部分は元に戻り、髪の毛まで元に戻った。
良い機会だからその日はマグマの中をずっと泳いだな。
熱さを全く感じない、不思議な感覚を味わった。
ある日、火山の主が誤って変な物を飲み込んで苦しんでいた。
その頃から人や者以外の生き物と交流するようになってたかな。
見た目は荒々しくて、威厳や迫力があり、見るからに強そうな奴だが…とんだうっかり屋でな。
周りの生き物達がハラハラしながら成り行きを見守っていた辺り、火山の主は慕われている。
そんな火山の主が変な物を飲み込んだって…その時は笑いを堪えるのに凄い必死だった。
見た目とのギャップがあり過ぎて、失礼のないように下唇を噛んでたよ。
私は口からその火山の主の体内に潜り込み、異物を取り出してやったんだ。
原因はデカイ宝石だったよ。
石に詳しくないから種類はわからないけれど、彼の体のように赤い宝石だった。
その事があって、火山の主と仲良くなれたよ。
あの宝石は今は彼の住家の近くに置かれている。
不思議な事にその宝石溶けないんだ。
たまに火山の様子を見に行くと、毎回彼に土産話をせがまれる。
彼は火山から出られない体だから、外の世界にとても興味があるらしい。
前に写真を持って行ったが、彼に渡そうとした瞬間に焦げた。
あれは爆笑した。
笑う私とは対象に彼は肩を落として残念がっていた。
そんな彼が可哀相だったから、次から火山でも燃えない物で外の世界を見せてあげてる。
数少ない私の大切な友だよ。
おっちょこちょいなのは相変わらずだけどね。
雪山に遭難した経験もある。
体が凍れば心臓も動かなくなるかと思って。
けど、やはり死ねないんだよ。
薄着なのに普通にいられるんだ。
吹雪が酷いのにね、体は温かいんだよ。
薄着なのに厚着をしているかのように寒さを一切感じない、奇妙な体。
便利だな、と思った。
遭難した次の日、酷い吹雪の中を黙々と山を登ると、洞窟を発見した。
疲れを感じていないけど、休憩しようと洞窟の中に入ると…翼を怪我している龍がいた。
雪のように白い、とても綺麗な龍だ。
一目で弱っているとわかるほど、彼女は辛そうだった。
吹雪は何日も前から続いていたから、簡単に外に出られない。
私は服を裂いて患部を巻いた。
食料が少なかったが、全てあげた。
私は殆ど飲まず食わずで生きれるから。
その事は砂漠で気づいた。
けど喉が渇いて凄く痛かったから、もう絶対しない。
死ねないし。
彼女は体を震わせて凍えていたから、私より大きい首を抱きしめて少しずつ体温を移した。
人間の大動脈が首に流れているから、一番早く温まると思ったから。
龍には鱗があるから、今思えばあまり効果は無かったかもしれない。
彼女は、首を抱きしめても暴れない、食料を与えても私が食べて見せるとモソモソ食べる、患部を撫でても呻くだけの大人しい奴でな、吹雪が止むまで暫く共に過ごした。
その頃には人間以外の言葉もだいたい理解できるようになってな。
彼女が話せるまで回復すると、お互いの人生を語り合ったよ。
その龍はあの大きさで子供だったが、今では更に大きく成長して、立派な母親になっているよ。
たまに家族一同で此処に遊びに来る。
やはり子供は可愛いものだ。
私にとても懐いてくれて、甘える姿が愛らしい。
今はまだ小さいが、そのうちどんどん大きくなる。
大きくなっても遊びをせがまれて、その相手が勤まるかどうか…今から心配だよ。
なんせ今の彼女があんなに大きいのだから。
潰されてしまうかもしれないな。
――長い事、私ばかり話してしまったね。
すまない。
人に会うのは何千年ぶりだから。
ついつい話し込んでしまった。
まだまだ話し足りないけれど、また次の機会にするよ。
また会えた時に、ね。
…それで、こんな所に何の用だい?
世界の端の崖に建つ、この城に。
よく来れたものだ。
普通なら来る途中で死んでるよ。
羨ましい。
羨ましいけど、昔ほどではないな。
今は友が沢山いるからね。
人間以外の、大切な友が数え切れないくらい。
あ、墓場の国のゾンビの友もいたけど…あの子は人間ではなかったか。
“元”人間だな。
時々会いに来てくれるよ。
何人かは旅をしていて……おっと、また話すところだった。
悪い悪い。
つい口が動いてしまう。
…でも、君にとっては嬉しい事だろう?
時間稼ぎになるのだから。
怪我は充分癒えたかい?
剣はちゃんと研いだかい?
魔力は溜まったかい?
後ろの仲間は、まだ生きてるかい?
本当に馬鹿だなぁ。
私より愚者だ。
教えてくれないか?
何故、海の生き物を無意味に殺して、海の城から宝や財宝を全て盗んだ?
何故、火山のマグマを自分勝手に止めて、死にかけた周りの生き物を守ろうとした無抵抗の彼の皮を無理矢理剥いだ?
何故、雪山で大人しく暮らしていた彼女の子供を捕まえて、たった一人の人間の持ち物と交換する為だけに、まだ幼い子供の生えたばかりの鱗を奪った?
何故、砂漠の中心で人に迷惑をかけないよう気を遣って生きていた彼の寝込みを襲って、自分達の砂漠用の服を作ったんだ?
何故、ただ旅をしたかった彼女達の大切な宝物を、たった一度だけこの場所に来る為だけに、彼女達が渡すのを断っても、ボロボロになりながら必死に逃げる姿を見ても、君達は執拗に追いかけ回して、最終的に殺した意味はあるのか?
まだまだ聞きたい事は山ほどある。
見てわかる通り、私は怒ってる。
私が怒るのは珍しい。
君達は貴重な体験をしたね。
ま、冥土の土産だと思えば良いよ。
君達がプレゼントを貰うのはこれで最後だ。
私が知らせを聞いて、此処で何もしなかった訳じゃない。
不老不死のこの体を利用して、魔術や薬を準備してきた。
復讐を完成させる為に、同士を集めた。
忌ま忌ましいこの体も、友に出会えたからこそ少しずつ好きになれた。
この体じゃなければ、あの子達に出会えなかったから。
今は不老不死になれて逆に感謝している。
神よ、ありがとうございます。
私はこれから、復讐を始めます。
あの不老不死の旅でもしなかった、最初で最後の……殺害です。
赦さなくて結構。
罰なら後でたっぷり与えてください。
止めたら貴方でも容赦致しません。
何時からか、周りに[魔王]と呼ばれるようになっていた。
私の新しい名前。
皆からの愛称だったけど、君達には恐怖を煽るしかないね。
さぁ、始めようか。
友の苦しみを永遠に味わうと良い。
生きる事を後悔させてやる。
私を殺そうと考えた時点で、もう駄目なんだよ。
さようなら、勇者とその仲間達。
魔王がお怒りです。
この魔王は、一つの世界の魔王。
他の世界にも魔王はいる。
そのうちの一人。
大切な友の為に立ち上がった、優しい魔王のお話。
ファンタジーゲームの魔王視点と思ってくだされば幸いです。
ありがとうございました。