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早朝

 辺りが白け始め、鳥のさえずりが聞こえるようになった頃、魔王はムクリと起き上がった。

 「ん・・・?寝すぎたか」

 窓の外を一瞥し、ポツリと呟く。

 補足しておくが、空が白け始めた頃に起きる人間はこの世界にはほとんど居ない。この村においても、農業か、運搬業を営む者くらいだ。

 しかし魔王の起床時間はそれよりも早かった。基本的に2,3時間寝ることができれば、一日中魔法を使っていても倒れることはないのだ。

 彼女は手櫛で違和感のあった髪を整えると、人差し指を立て目の前の空に円を描いた。円は淡く光る線を残し、その中心に手を置く。その手をそっと引くと、円の中が歪み、映像が映し出された。

 「ヴィン、ヴィンディヴァイス。悪いな、連絡が遅れた」

 円に向かって魔王が話しかけると、映像に映しだされた一体の魔物が安心したように応えた。

 「いいえ、魔王様。ご無事で何よりです。そちらはいかがですか?」

 「予想以上にのんびりする暇がなさそうだ」

 魔王ははぁ、とため息をついた。その姿を、ヴィンと呼ばれた魔物が悲しそうに見つめる。

 「御労しい・・・」

 「私のことはもういい。そちらはどうだ。流石に一晩で大きな変化はないと思うが・・・」

 円に向き直り、魔王はヴィンに問いかけた。

 ヴィン―――正式名、ヴィンディヴァイスは、魔王にもっとも厚く忠誠を誓い、そして魔王にもっとも信頼されている彼女の従者である。

 人の王との謁見の時も魔王のすぐそばに控えていた彼は、城の一切の管理を任されている。

 「はい、大きなものはありませんでしたが、カルセラ族が「人間が住処に入ってくるようになった」と愚痴をこぼしにきました」

 「カルセラか・・・。あそこは森を挟んだ隣に人間の村があるのだったな。一応様子を見に行くか」

 わざわざ愚痴をこぼしに城を訪れるくらいである。それほど近くにカルセラの集落はあった。

 「わかった。他に変化はないのだな?」

 「はい」

 「うむ、ありがとう。これからも頼むぞ」

 ヴィンが頷いたのを確認すると、魔王は再度円の中心に手を当てて拳を握った。すると円はその拳に握りこまれるように消えていった。

 魔王はベッドから降りると大きく伸びをし、着替えて身を正す。散歩がてらあの男の様子でも見るか、と、自室を出た。ところで

 「あれ、昨夜のお姉さん。早起きですねー」

 同じタイミングで部屋を出たらしい、昨夜の青年に出くわした。

 「お前も随分早いな。人間の一般的な起床時間はもう少し遅いと聞いていたのだが」

 「なら俺はその「一般的」に入らなかったんでしょうね」

 にっこりと笑みを向けられる。魔王はその顔を一瞥すると、身を翻し階下へと向かった。

 「あ、お姉さん何処行くんです?あいつのところですか?」

 俺も行くところだったんですー。と、青年は魔王の後ろを歩く。魔王はその一切を無視していた。



 まず目に入った井戸を見て、魔王は眉を顰めた。

 井戸の堀が、自分が作ったにしては随分と粗末なものだったのだ。まるで子供の工作である。

 (多少焦っていたとはいえ、これは見るに耐えられんな)

 魔王は人差し指を出すと、それを下から上へ動かす。すると昨夜のものよりは小さい、縄のような蛇が何匹も現れ、井戸の形を整えていった。

 「装飾をつける必要もないし、こんなものか。む、そういえば滑車もあったな」

 井戸のそばに転がっている部品を見て、それとあわせて記憶にある滑車を作っていく。記憶どおりに構成されたそれを見て、魔王は満足げに頷いた。

 さて男の方は、と昨夜男を捕らえていた場所を見ると、そこには既に青年が居た。片足を中途半端な位置まであげ、何かを踏もうとしているらしい。足の着地地点には男の頭があった。

 「何をしている」

 魔王の声に反応して青年が振り向く。足は未だ上がったままだ。

 「いやぁ、ちょっと見るに耐えない顔をしていたんで、埋めてやろうかと」

 青年は笑顔のまま言った。

 男を見やると、確かに醜い顔をしていた。気絶したのか目は閉じられているが、声を上げないようにと口にまで絡ませた蔦、そしてその周りは唾液と土で汚れていた。もともと男の顔は普通どころか不細工な方だったので、その醜さは確かに見るに耐えない。

 「同感だが、埋めてしまっては息ができないだろう。死んでしまっては裁けんぞ」

 「なるほど。それは困りますね」

 青年は仕方がない、と言った風に肩と足を下ろすと、男の顔を反対に向け、自分から男の顔が見えないようにした。

 「そうだ、お姉さん名前を教えてもらえます?多分、この男が罪を犯したことを示す証人として、軍に同行することになると思うんです。その間仲良くしましょーよ」

 青年は相変わらず笑顔のまま言う。魔王はその顔を見て、睨んだ。

 「名など知らん。忘れた。覚えていたとしても、お前に教えたくはないし仲良くもしたくはない」

 「なんでですか?」

 それでも崩れない青年の笑顔に、魔王は腹が立ってしょうがなかった。

 「顔を作っているような奴と、誰が馴れ合いたいと思うか」

 ぴくり、と青年が反応する。魔王はそのまま去ろうとしたが、青年が彼女の腕を掴んだことによってそれは止められた。

 「なら、貴女に対しては作りません。それなら、仲良くしてくれます?」

 今度は、笑顔など何処にも見えない、それ以外の表情も見えない、無表情だった。

 「その気味の悪い敬語もやめるならな」

 「は?」

 「慣れていないのだろう?中途半端すぎる」

 魔王は腕を振り払い、青年に言った。彼は呆けたように魔王を見つめていたが、「それもばれてたのか」と頭を掻いた。

 


 「じゃあ改めまして。俺はアンク=ファクシリア。勇者の証は持っているが、軍人でもある。これからくるのは俺の部下たちだ」

 「なんだ、軍と連絡が取れていたのか」

 場所を変え、二人は宿屋の食堂に居た。村人が起きだす時間になったのか、外はにわかに騒がしくなり始めていた。

 宿屋の亭主も外を気にしながら、二人に朝食を出す。

 「軍には軍の連絡の取り方があんだよ。まぁ、魔道具なんだがな」

 そういいながら、青年―――アンクは、首から下げていたペンダントを持ち上げた。

 「これが通信機代わりになってんだ。昔みたいにでかいの背負って歩かなくて良いから、便利になったもんだよなぁ」

 しみじみとアンクは言うが、魔王は人間の世のことは疎く、何のことだかよくはわからなかった。一方のアンクはハッとして、身を乗り出す。

 「そうだお前、名前忘れたってんなら今考えてくれ。流石に名無しじゃ証人に使えねぇ」

 言われて魔王は一瞬面倒くさそうに眉根を寄せたが、裁くためならば仕方ない、と頭を悩ませた。

 「うむ・・・では、マオにでもするか」

 「魔王」だから「マオ」。なんとも安直である。

 「ファミリーネームは?」

 「それも必要なのか?・・・では、デイハルトにしよう」

 こちらは古代語で「闇の者」という意味だ。今の人間にわかるものはそういないだろう、と高をくくって言ったのだが、

 「いいのか?それ、「闇の者」って意味じゃないか」

 魔王は人を甘く見ていたらしい。

アンクのキャラが定まらない・・・

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