表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

山頂にて

 山頂に着いた魔王たちは、その日何度目かの休憩をとっていた。そこは人が拓いたのか木々に囲まれた小さな広場になっていた。切り株がいくつか点在し、更地に(なら)されている。そのひとつに座ったアンクが腕を組み、小さく唸った。

 「どうした」

 自分が乗っていた馬を労いつつ、魔王がアンクを見て問うた。彼は眉を(ひそ)め、後頭部を掻きながら明後日を見る。

 「いやさ、普通山越えっつったら魔物がわんさか出てくるはずなんだよ。それなのにまだ一度も遭遇してないだろ?不思議でさー」

 唸り続けるアンクを他所に、魔王はそんなことか、と視線を馬に戻した。

 魔物に遭わないなど、彼女にとっては不思議でもなんでもない。むしろ彼女がそうするように仕組んでいた。近くに魔物がいるのを感じるや否や、彼女は自身の魔力を放出させていた。

 魔王は普段、自身の魔力を押さえ込んでいた。強すぎる力というのは相手に恐怖しか与えない。それを知っていたからこそである。

 そんな彼女が魔力を放出するのは、機嫌が悪い時だけだった。それは彼女の「誰とも話をしたくない」と言う意思表示でもあった。魔王の一番の信用を得ているヴィンディヴァイスですら近付こうともしない、と言う話は魔物の間で知れ渡っていて、魔王の機嫌を知るサインにもなっている。

 そのため、魔王の魔力を感じ取った魔物は「触らぬ神に祟りなし」とばかりに一目散に逃げ出すのである。その話を知っていた魔王はそれを利用したのだ。

 ちなみにここに魔力を持つものがいたならば、魔王の異常な魔力に気が付いて訝しんだかもしれない。まぁ魔法具はあっても、魔力を持つものはここにはいないのだが。

 「ま、無いならそれに越したことはないんだけどさ」

 ようやく顔を上げたアンクは、いつの間に買っていたのか果物を取り出して齧りついた。それと同時に魔王が動きを止め、隊員たちが休んでいる方を見た。

 「アンク、何も山に出るのは魔物だけではないぞ?」

 きょとん、とした様子で魔王を見たアンクは、彼女の視線を追って、そして視線を戻した。

 「何、熊とか?」

 「いいや、それよりも面倒で、何の役にも立たない奴らだ」

 魔王は馬から手を離し、一点を見つめ続けている。果物を齧りつつ頭を悩ませたアンクは、思いついたのか「ああ、」と顔を上げた。

 「もしかして山賊か?心配要らないよ、あいつらは熊相手にするより簡単だから」

 からからと笑いながら言ったその直後、

 「んだとゴルァァァァァ!!!」

 隊員たちの後方、ちょうど魔王が視線を投げていたところから厳つい顔の男たちが飛び出した。毛皮を中心とした衣服を着た彼らは、伸びた髭のせいかどこか汚らしく見える。各々の手には剣や棍棒が握られていて、釣りあがった目はアンクを睨み据えていた。

 突然の大声と登場に驚いた隊員たちは咄嗟に剣を取り出す。目を丸くしたアンクは、はっとして魔王を見上げた。彼女は変わらず、ただその一点―――山賊たちが現れたところを見つめていた。

 「もしかして・・・わかってた?」

 「むしろ何故わからん。それでよく兵が務まるな」

 呆れに近い淡々とした言葉はアンクの身体を容易く貫いた。「面目ない」とは以前も言った言葉だった気がする。

 隊員たちは応戦するも、山賊の怒りの矛先がアンクに向いているのでやりづらさを感じていた。普段から守りながら戦ってはいるものの、狙いが一点に絞られることはほとんどなかった。

 そして、これは山に入ったときからだったが、妙な威圧感を感じていた。それぞれ感じる圧に違いはあったものの、変わらず恐怖を抱かせるほどだった。

 山賊たちもそれを感じてはいるが、恐怖より怒りが上回ったらしく大して気にしていなかった。

 それによる恐怖とは、人間の第六感が魔王の魔力を感じ取った結果であるとは、彼らは知らない。

 次から次へと出てくる山賊たち。見えるだけでもその数は20を超えていた。その後方にはまだ人影が見える。アンクが言ったとおりそれほど苦戦しているわけではないが、多勢に無勢である。

 アンクは「山賊程度なら任せてもいいか」などと思っていたのだが、増える彼らを見て“目を輝かせた”。

 「なぁマオ、結界とかそういうの作れるか?」

 「?ああ」

 魔王の返事を聞いて、アンクは嬉々として胸に握りこぶしを置いた。大剣を引き出す。

 「じゃあ張っといて。あ、あいつらにもお願いな!」

 ニッコリと微笑んでマオに言った後、アンクは口に手を添えて「お前ら、俺が出るから退け!」と隊員たちに向かって叫んだ。隊員たちはそろって肩を跳ね上げ、大慌てで馬の元まで退いた。

 「あんだぁ?この数と一人でやり合う気かクソガキ」

 「クソガキっつー歳でもねぇんだけど・・・」

 アンクは手で大剣を遊ばせながら呟く。確かに彼の見た目は二十代前後だ。だが山賊たちはどう見ても三十代後半より上なので、彼らから見ればアンクはまだ子どもなのかもしれない。

 「まぁいいか。ひっさしぶりに暴れられるし」

 口角を上げて大剣を横向きに構える。長い刃は両手を伸ばしても切っ先まで届かない。

 その光景を見た数人が、慄いたのか後退った。山賊だけではない。隊員までもが後退ったのだ。

 「あいつ、これから何をするつもりなのだ?」

 結界を張り終わった魔王は腕組をして、彼女の後ろにいる隊員に問いかけた。気弱そうな隊員は一拍置いて答える。

 「そ、総隊長の魔法具の特性は、伸縮なんです。重さは変わらないそうですが、長さは計り知れない、と・・・」

 「ふむ、それで?」

 「は、はい。ですから、総隊長は刃をある程度伸ばして、こう、一気に・・・」

 そこで、魔王はあることを思い出した。それは昨日アンクが言っていたことだ。「自分の武器は、横着な人向けなのだ」と。

 「なるほどな。ありがとう」

 アンクに目を向ければ、その手にある剣は既に伸び始めていた。その長さは彼の身長の倍を超えるほどになっている。

 「よっし、いくぞ!」

 アンクは大剣を大きく薙いだ。危機を感じた山賊が逃げたようだが、それでも大剣の範囲内だった。剣は木々も巻き込んで行き先にあるものを押しのけていく。アンクの身体が半回転したとき、広場の範囲が半円分広がっていた。

 辛うじて刃が届かなかった山賊たちは、呆然と自分たちの向かいを見ていた。アンクは大剣の長さを戻しながら、辺りを見回して頬を掻く。

 「やべ、これって森林伐採かな」

 無残にも倒れた木々を見て、魔王は息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ