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プロローグ

 暗い森の奥深くに佇む、それはそれは立派で巨大な城。それは、悪の代表と恐れられる魔王の城。そこを訪れたのは、勇者でも魔物でもなく、人の王だった。


 「人の王自らお出ましとは珍しい。どうした?」

 玉座に座ったまま脚を組み、口を三日月形にして見下ろしながら女は言った。僅かに笑んだ視線の先には、従者を二人引き連れた人の王がいる。

 初老といった風の人の王は額に汗を浮かべながら女を見上げた。腰の位置より長く真っ直ぐな黒髪、黒にも見える紫色の瞳。誰もが振り返るであろうこの美女が、世界に蔓延(はびこ)る魔物の長、つまり魔王なのだ。

 数多の恐ろしい獣を融合したような、大きな角が2本生えた巨大な化け物。これが人の王のイメージする魔王だった。しかし目の前の魔王と名乗る女はむしろイメージと真逆の位置に居るので、動揺を隠し切れなかった。

 まさか罠でも張られたのだろうか。そうとすら思った。人の王は魔物、ひいては魔王をも根絶やしにしようとギルドや勇者という職業まで作ったのだ。そんな者を自分の根城にあっさり引き入れるなんてどう考えてもおかしい。

 「どうした?用があってきたんだろう?」

 魔王は尚も変わらぬ表情で問うた。人の王がどこか身構えているというのは誰が見ても明らかである。魔王の表情は人の王、そしてその後ろに控える従者たちのその様子がおかしいからだ。

 覚悟を決めた人の王は拳を固く握り、口を開いた。

 「我々は、貴女に頼たいことがあり参った」

 「頼み?人の王が魔王にか。それはまた面白そうだな」

 魔王はケラケラと声を出して笑った。その態度に人の王は頭に血を上らせたが、何とか押さえ込み話を続ける。

 「簡単にでいい。勇者たちを懲らしめて欲しいのだ」

 「は?」

 それまで笑っていた魔王はぴたりと笑うのを止め、真顔で人の王を見る。聞き間違えでもしたかと頭の中で何度反芻してみても、他の言葉にはならなかった。

 「なんだそれは。勇者と言うのはお前が作ったものだろう?なぜその始末を私に頼む」

 「始末しろなどとは言っていない!」

 突然がなり、ハッとして顔を反らす。

 「懲らしめるだけでいい。殺すな」

 「人の王、それが物を頼む態度か」

 魔王の後ろに控えていた魔物が人の王を睨む。顔を見ずともその殺気は十二分に伝わっていた。その気配を感じ取った人の王の従者が構えるが、魔王は片手で自分の従者を諌めた。

 「その程度、お前の配下どもで十分ではないのか」

 「…勇者たちには強力な魔具を授けている。我が魔術軍でも太刀打ちできまい。それに勇者というのは誰も彼も能力値が異常に高いのだ」

 「対魔物用の人間だものな。そのくらい当たり前か」

 魔王は鼻で笑って皮肉ると玉座から立ち上がり、奥へと消えていこうとした。人の王はそれを見て慌てて引き止める。

 「待て!何処へ行く」

 「お前の頼みを聞くための準備だよ」

 人の王は目を丸くして驚いた。まだ僅かな情報しか話していないと言うのに、魔王は既にやる気になっているらしい。

 目を丸くしている人の王を見やり、魔王は薄く笑った。

 「面白そうではないか?お前たちの常識とは真逆のことをするのだ。世はどうなるかね」

 クツクツと笑いながら魔王は隣室へと歩を進める。と思えばぴたりと足を止めて人の王に振り返った。

 「ああそうそう、用が終わったならさっさと帰るがいい。私の従者はお前が気に入らないらしいよ」

 その言葉にいち早く反応したのは人の王の従者たちだった。未だ玉座の傍らに控えている従者は、殺気を出さないまでも人の王を睨み据えている。その顔をみた人の王は若干の恐怖を感じながらも、ここに来たときに感じた疑問を口にした。

 「待て!もうひとつ…何故我々を簡単に城に入れた」

 すると魔王は一瞬きょとんとした後口の端を上げ、

 「お前たちなど、殺そうと思えば一瞬で殺せる。私たちが殺させるなど有り得んわ」

 そう言って、奥へと消えていった。

 

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