彼からもらった力を自信にかえて
消極的で人見知りのこず枝、高校二年生。
そんなこず枝が、文化祭でクラスごとに歌う曲の演奏を任されることになった。
4歳からピアノを習っているという理由から。
(どうしよう...)
こず枝は、不安でたまらなかった。でも、
断ることもできないまま、こず枝の演奏が決まった。
放課後の練習が始まった。
こず枝は、毎日放課後になると一人で、音楽室での練習。
ピアノを弾く手が震える。
身体に力が入って、上手く弾けない。
こず枝は、そんな自分が情けなくて涙が出る。
涙で鍵盤が見えない。
(無理だ…私なんかには無理…)
そう思うと、椅子から立ち上がった。
その時、音楽室のドアが開いて誰かが入ってきた。
同じクラスの修司だった。
活発で、誰からも好かれているクラスの中心的存。
こず枝は、修司と会話などしたこともなかった。
こず枝は、修司の姿に驚いて立ちすくんでいた。
すると修司は、「何?どうした?練習しないの?」
と聞いてきた。
こず枝が、うつむいて何も答えられないでいると、
「緊張してるんだろ?私なんかに無理、できない、なんて思って断ろうと思ってる?」
こず枝は、思っている通りの事を言われて、思わず、修司の方を見た。
そんなこず枝に、修司は、「だよな。緊張するよな。でも、やれよ!私なんかに、なんて考えるなよ。
好きでずっと続けてきたピアノだろ?
自信持てよ。当然、緊張はする。だけど、これだけ練習したんだからって思えるくらい練習すれば、その自信が緊張よりも勝つから!
必ず、自信の方が勝つようになるから!
だから、自信の方が勝つくらい練習しろよ。」
と言って、立ったままうつむいているこず枝の頭を撫でた。
驚いて修司の方を見ると、修司は、自分の右手を拳にして、自分の左胸をトントンとたたく仕草をして、優しくほほえんだ。
修司のそのしぐさ仕草に、こず枝は、胸の奥が『きゅん』となった。
「頑張れよ。」そう言って、こず枝に背を向け、右手をあげると音楽室から出て行った。
しばらくこず枝は、呆然と立ちすくんでいた。
ハッと我に返り、ピアノを弾きはじめた。何度も何度も、何度も弾いた。
繰り返し繰り返し、練習した。
あれから、修司と話すことはなかった。
こず枝だけのピアノの練習が終わり、明日から、クラス全体での練習が始まる。
こず枝だけの練習最後の日、こず枝が音楽室に行くと、修司が窓際にもたれて立っていた。
こず枝を見て、修司は優しくほほえんで「頑張ったな。断らずによく頑張ったな。」と言った。
何も答えられずにいるこず枝に、「聞かせてよ、ピアノ。」と修司が言うと、こず枝はうなずいてピアノを弾き始めた。
毎日毎日、繰り返し繰り返し練習してきた。その練習は、こず枝に自信を与えた。
緊張よりも自信の方が勝っていた。これだけ練習してきたという自信。
修司の言葉通りだった。
曲が終わると、修司が「自信の方が勝ったな。よく頑張った。」と言うと、こず枝は、椅子から立ち上がって、「あの…あ、ありがとう...あの時励ましてもらったから、だから、あの…ここまで頑張れて、それで…あの…自信が持てて、今は、これだけ練習してきたんだっていう自信があって…」と、こず枝が一生懸命気持ちを伝えると、修司は笑顔で、あの仕草をして見せた。
右手を拳にして左胸をトントンとたたく仕草。
こず枝の大好きな仕草。頑張ろうと思わせてくれた仕草。
この仕草を初めて見た時と同じ、こず枝の胸の奥が『きゅん』となった。
修司は、「明日からのクラス全体での練習、頑張ろうな。」と言うと音楽室から出て行った。
こず枝は、ドアが閉まると、修司の仕草を真似た。自信が大きくなっていくような気持ちになった。
それから、1ヶ月近く続いたクラス全体での練習も終わり、文化祭当日。
こず枝のクラスが、舞台に上がろうとしている時、こず枝の後ろから、「頑張れ。俺がついてる。」と言って修司は先に舞台に上がって行った。
幕が開ける寸前、修司はピアノの所にいるこず枝を見て、あの仕草をした。
するとこず枝は、ほほえんで、同じ仕草をして見せた。修司は、うれしそうに笑った。
二人の想いが繋がった瞬間だった。




