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魔力使いのまったり冒険者クライド  作者: 大野半兵衛


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第55話 これからもよろしく

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 第55話 これからもよろしく

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 朝日が眩しい。夏到来だな。

 そんな俺はランニングをしている。背中にババアとか年増とか言われていたギルマスを背負って。


「遅いぞ、クライド!」

「はいはい」

「はい、は1回だ!」

「はーーーい。痛っ!?」

「生意気言っていると、殴るぞ」

「もう殴ってますよね!」

「ああん?」

「いえ、なんでもありません……」

「速度を上げろ!」

「はい!」


 1カ月ほど前、俺が毎日ランニングしていると言うと、つき合ってやる! と言いつつ俺の背中に乗り込んだんだよ、このギルマス。

 しかも、このギルマス(暴虐エルフ)さん、スパルタなんですよ。

 おかげでこの1カ月で結構な体力がついたと思う。

 しかし、相変わらずこの暴虐エルフの胸は薄いな。何も柔らかくないんだけど。


「痛!?」

「なんか文句あるか?」

「い、いえ……ありません」


 なんで俺の考えていることが分かるんだろうか?

 この暴虐エルフは、容姿だけなら銀髪碧眼の美人なんだけど、実年齢は最低でも100歳だ。

 エルフの血が4分の1だけ入っているのだとか。母方の祖父がエルフだったことで、寿命はおそらく数百歳はあるらしい。

 純粋なエルフの寿命が2,000歳から3,000歳だと言われているけど、4分の1エルフでも、エルフの特徴が多く出ている場合は1,000歳を超えることがあるらしい。

 エルフってスゲー長生きだよね。それに比べ、俺のようなヒューマンは長くても100歳だ。80年生きれば、十分生きたと言われる。


「ふー、ふー」

「よし、風呂だ! クライド、風呂を用意するんだ!」

「はいはい」


 あんた背中に乗っているだけだったんだから、風呂くらい用意してくれよ。


「なんか言った?」

「いえ、何も言ってませんよ」


 俺は今、養母になったギルマスの家に住んでいる。その庭に露天風呂を作って入ったのが、事の発端だ。

 この家、かなり大きく屋敷と言ってもいいくらいの規模なんだ。庭も広いから露天風呂を作っても全然狭くならない。

 そして、あの日以来ギルマスが毎日風呂に入るようになった。おかげで俺はその用意をさせられる羽目になったわけだ。

 まあ、不潔なババアよりは清潔な年増のほうがいいから用意するけどさ。(用意しないと物理的に用意させられる)


「今日の酒は【ズシャ】で頼むぞ」

「はーい」


 朝から風呂に入って酒を飲む社会人ってどうよ? しかも冒険者ギルドホルトン支部のギルマスだよ?

【ズシャ】は獣人国のその先の国の酒で、かなり貴重なものだ。それを1合徳利に入れて、出す。もちろん肴を用意しないと機嫌が悪くなる。

 俺は養子ではなく、家政婦としてこの家に入ったようである。

 俺が初めてこの家にやってきた時、この家はゴミ屋敷だった。ゴミを集めていたわけじゃなく、全部この人が出したごみだ。

 いい加減、ズボラ、生活無能力者、この人を形容する言葉は色々あるが、性質の悪いのはお金だけは持っていることだろう。


「はい。【ズシャ】と肴の焼き鳥ね」

「ありがとうな、クライド」

「いえ、いいですよ。ママ」

「そのママというのは、本当に勘弁してくれないか」

「じゃあ、お母様」

「……ママでいい」


 このやり取りは何度目かな。お母さんなんて絶対に言わないからな。ちょっとした意趣返しだ。


「クライドも一緒に入るか」

「遠慮しておきます」


 容姿だけならありなんだけど、仮にも養母なんで。

 ま、この人は恥じらいというものをどこかに落としてきたようで、素っ裸で家の中を歩き回るんだけどね。そのまま外に出ていかないだけよいと思うことにしている。


 ギルマスが風呂から上がったら、俺も汗を流す。酒は飲まないよ。

 ギルマスの出勤はゆっくりだ。どうせ部下に書類仕事を全部投げているのだろう。

 俺もゆっくり出勤する。まあ、出勤なんて大げさなものではないけどさ。

 この数日部屋で本を読んでいたので、出勤は久しぶりだ。

 Sランクの依頼は簡単にはなくならないので、取り合いにはならないのだが、今日はよい依頼がないようだ。

 依頼を物色していると、後ろから蹴られた。


「ギャァッ」


 叫んだのは蹴った冒険者だ。

 当然ながらただ蹴られるのを待っている俺ではない。しっかり痛い目を見てもらう。

 魔力触手でパチンッと弾いてやったので、よくて脛の骨にヒビが入っているか、悪くて複雑骨折だな。


「どうかしましたか?」

「て、てめぇ!」


 足をかかえ、涙目で凄んでも怖くはないよ。あのギルマスの鋭い視線に毎日耐えている俺だからさ。

 このホルトン支部では、こういうことはよくある。何せ気の強い、手の早い人が多いからね。そういった人ほどすぐにいなくなるけど。


「まあ、気をつけることです。ホルトンでは弱い人はすぐに死にますから」


 魔境に囲まれたクロディア回廊にあるホルトン周辺では、出てくるモンスターは最低でもCランクになるし、そのCランクも群れで出てくることが多い。

 実力もないのにホルトンで一旗揚げようとした冒険者は、すぐに逃げ帰るか死ぬ。

 大した威力もない魔力触手の一発で足の骨が折れた彼のような冒険者は、後者だな。

 今日は帰って本を読みながら魔力訓練でもしよう。


「おい、待て!」


 待てと言って待ってもらえると思うなんて甘いねー。


「クライドさん、少しよろしいですか?」


 受付嬢のメリンダさんだ。彼女はまだ17歳と若いがギルマスと違って巨乳だ。それはもう溢れんばかりのボリュームである。

 とはいえ、俺は胸は大きくても小さくてもいい。胸に貴賤の差はない。ただし、ギルマスのはまな板だから、ちょっと違う。


「クライドさんに指名依頼が出ていますので、受付までお越しいただいてよろしいでしょうか」


 メリンダさんは倒れている冒険者を見て見ぬふりして要件を言った。


「指名依頼? ……了解です」


 俺に指名依頼とは、初めてのことだ。受付にいくと、メリンダさんが依頼書を出した。


「Sランクモンスターのジュブレールレックスの納品依頼です。傷は極力つけないようにとのことです」

「傷つけたらダメですか」

「剥製にするらしいですよ」

「なるほど、剥製なら傷は少ないほうがいいか」

「はい。ですから、クライドさんに指名依頼が出たわけですね!」


 報酬は破格の15,000,000G。

 Sランクモンスターを狩って解体所に持ち込んでも、安いと1,000,000Gにもならないし、高くても3,000,000Gくらいだ。それが15,000,000Gの報酬なのだから、割のいい仕事だ。


「分かりました。これを受けます」


 納品期限は3カ月後だから、問題ないだろう。

 金色の冒険者証を受付に出すと、俺の肩に手をかけようとしていた先ほどの冒険者の仲間の手が止まった。

 手を伸ばしてきたヤツがゴールドの冒険者証をガン見している。そっと手を引いて立ち去っていった。

 いい判断だ。


「あ、うちのプリママに依頼に出ると伝言をお願いします」


 ギルマスの名前は、プリダリ・アアメンター。プリダリを短くし、ママをつけてプリママだ。下から漏らしたような発音になるのが、俺は気に入っている。


「承知しました」



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