第54話 さようなら……
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第54話 さようなら……
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宰相府内、宰相の執務室。そこでは宰相とその懐刀のメッサーラ子爵が密談をしている。
「情報部の報告では、Sランク冒険者になったクライドの出身は貴族のようです」
「何、貴族だと? どこの貴族だ? なぜ家名を名乗っていない?」
「父はボケットナス・ベルデナーグ伯爵です」
「ベルデナーグ……あのベルデナーグか」
「はい、あのベルデナーグ家です」
ベルデナーグ家は先代の頃から凋落著しく、持っていた利権を失っただけでなく、領地を切り売りしているような家なので、貴族の間では有名だった。
「数カ月前に、長男のクライドフェールンの死亡届けを受理しております」
「クライド、フェールン……か」
「そのクライドフェールンの容姿は黒髪に黒目。この国では黒髪も黒目も多くはないですがおります。ですが、共に黒というのはかなり珍しい特徴です」
「うむ」
「さらに、クライドフェールンの死亡届けが出された時期と、クライドが王都第三ギルドで冒険者登録した時期が重なります」
「名前、黒髪黒目、時期、それらが偶然として重なる確率は、かなり低いだろうな」
「はい。あり得ないというわけではありませんが、ここまで揃っていれば、クライドフェールンとクライドが同一人物であると、判断されるのがよろしいかと」
「うむ。……しかし、ベルデナーグはなにゆえ、優秀なクライドフェールンを追い出したのだ?」
たった数カ月でSランク冒険者に成り上がったクライドフェールンを追い出すなど、あり得ない。没落しているのだから、なおさら優秀なクライドフェールンがベルデナーグ家を継いで家を盛り立てるべきである。
「どうやらクライドフェールンは魔法が使えなかったようです。それで廃嫡され、さらに追放されたようです」
「魔法が使えぬ、か。だが、剣でも槍でもたった1人でSランクモンスターを倒せるだけの実力があるのだ。そんなことは些細な問題だと思うが?」
「そのことですが、納品されたランページバッファローの状態を確認したところ、傷がまったくありませんでした」
「傷がない? どういうことだ? まっさか老衰で死んだ死体を持ってきたわけではないであろう?」
「それでは昇格試験を通りません。ギルドがしっかりそこは確認しております」
「ならば傷がないのは、どういうことか?」
「さっぱり分かりません」
「……メッサーラ君でも分からんのか?」
「はい。某もランページバッファローを確認しましたが、切り傷や魔法で攻撃した痕も見当たりませんでした。腹を裂いてみましたが、内臓にも損傷はなく、毒を使った形跡もありませんでした」
「なんとも面妖な話だ」
「はい。騎士団長のルドルフ殿にも見てもらいましたが、あのような死体は初めて見たとのことにございます」
「詳細は聞けんのか」
「冒険者は手の内を隠すものです。それを無理に聞き出すことは、避けるべきでしょう」
「あのアアメンターが気に入り、わざわざ養子にしたと言うのだ、触らぬ神に祟りなし、か」
「はい」
「ルドルフ殿にも、無用な接触は避けるべきと徹底しておいてくれ」
「それはすでに」
「ならばよい。下手に騎士団に勧誘などしようものなら、アアメンターが出てこないとも限らんからな」
「はい」
この後、宰相府から各貴族家に新Sランク冒険者クライドのことが通達された。容姿の特徴と年齢などが共有されることになる。
その通達を受けたクライド君の実家であるベルデナーグ伯爵家では、老執事のコールギウスがその通達を読み、笑みを浮かべる。
「さすがはクライドフェールン様ですね」
その情報は当主の伯爵のデスクの書類の山に置く。宰相府の通達を握り潰すことはしない。どうせ、当主は読んだ振りだけで、内容を把握することはないだろう、と。
また、クライドと揉めたロイメス男爵家でも、DランクのクライドとSランクのクライドが同一人物だとは思われなかった。一部の者が新しいSランク冒険者が現れた程度にしか受け止めなかったのだ。
「所詮は下賤の者のことだ。ふんっ」
ロイメス男爵自身が元は奴隷商人なのだから、その言葉はブーメランとして返っていく。とは彼自身1㎜も思っていない。
場合によっては、冒険者よりも下に見られかねないのが奴隷商人だ。
そんな話がされていると知らない俺は、王都本部でマダムから財宝の売却について報告を聞いていた。
「え? に、240億?」
「はい。ギルドの手数料と王家に献上する分を差し引いて240億Gをギルドの口座に入金しておきましたわ。これが詳細です」
詳細を見ても240億Gだった。
一生遊んで暮らしてもおつりがくるのでは?
「ありがとうございます、外商部長」
「いいのよ、ギルドも儲けさせていただいたから。ウフフフ」
お互いによい感じなら、問題ない。
そんな感じで大金持ちになった俺は、王都の知り合いに挨拶をしてホルトンの町に向かった。
「は~気が重いな~」
王都で聞いた話では、あのギルマスは相当ヤバい人だ。1人で国を相手に喧嘩し、国王に頭を下げさせるなんてあり得ないだろう。
「まさに魔王じゃないか」
まあ、魔王なら国王の下げた頭を踏み潰しそうだけどさー。
それをやると、マジ引くけどね。
「とりま、さようならだな、王都」




