第5話 痛いんですけど
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第5話 痛いんですけど
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グランベルという大男が、俺の冒険者登録の試験官を務めることになった。
グランベルさんはハルバードの石突を地面に立てると、ただ立っているように見えた。
「それでは、登録試験、始め」
受付オッサンの合図で、試験が始まった。
俺は剣を構え、グランベルさんにゆっくりと近づく。
あと5mといったところで、飛び込んでいく。
その瞬間、俺の体が真っ二つに分かれた。
「ぐあっ!?」
地面に横たわる俺の体。
そこで俺は我に返った。
今のはなんだ? 俺は何を見たんだ? もしかしたら、今のは俺の未来なのか?
グランベルさんを見ると、ニヤリと口角を上げた。今の俺がここから先にいくとどうなるか、この人は知っているのだ。
「ふー……」
俺は息を吐き、ゆっくりと後退した。
「どうしたかかってこいよ」
「………」
かかっていったら俺は瞬で地面を舐めているだろう。
だったら、俺にできることをやってみるさ。
魔力を循環させる。今の俺にできる最高の循環だ。
その体内で練った魔力を放出し、魔力フィールドを形成する。
「む」
ピクリと受付オッサンの眉が動いた。受付オッサンは俺の魔力を感じたようだが、グランベルさんは反応を見せない。ポーカーフェイスなのか、魔力を感じていないのか、どちらにしろ俺にできるのは魔力フィールド内の全ての行動を把握することだ。
目で追うと追いつけないなら、直接脳で画像処理するしかないんだよ。
俺は目を閉じて、魔力フィールド内の状況を把握する。グランベルさんの動きさえ分かればいいのだから、そこまで広げる必要はない。半径10mで十分だ。
最高の魔力循環で身体能力を上昇させ、魔力フィールドからのイメージを直接脳で処理をする。
よし、いくぞ。
先ほどのように徐々にグランベルさんとの距離を詰める。5mを越えて4mへと至る。まだいける。そう思った瞬間、グランベルさんが動いた。
俺の脳がその画像を認識し、瞬時に反応する。最高の身体強化を施した反射神経は、グランベルさんのその一撃を頭を下げて躱した。
そこで俺は踏み込み、剣を突き出した。これ以上ないタイミングの一撃だ。
「これで!」
身体強化した俺の体は、圧倒的なパワーとスピードを引き出す。
グランベルさんの胸にあと30cmだ。20cm、10cm、届く!
そう思った瞬間、俺の腕に激痛が走った。
「ぬおぉっ!?」
「ぐあっ!?」
剣が高らかと飛んでいき、弧を描いて地面に落ちる。
俺は腕をだらりと下げ、痛みを堪えて奥歯を噛む。
目を開き見たものは、あり得ない方向にくの字に曲がった俺の両腕だった。え、マジっすか!?
登録試験ですよね? 冒険者生命の危機なんですけど!?
「そこまで!」
「しまった!?」
受付オッサンとグランベルさんの声が重なる。
「おい坊主、大丈夫か!?」
「大丈夫なように見えるのか、グランベル! やりすぎだぞ! 両腕が折れているじゃないか!?」
「仕方ないだろ、体が無意識に反応しちまったんだよ!」
受付オッサンとグランベルさんが言い合いをしているが、俺はそれどころじゃない。
痛みで脂汗が額に浮かぶ中、魔力循環を腕に集中させた。
「ちょっとどいて!」
グランベルさんと受付オッサンを押しのけて、ローブを纏った女性が出てきた。
「腕を治療するわ。少し我慢していてね」
「あ、はい。ありがとうございます」
淡いピンクの髪とコバルトブルーの瞳のその女性は、バキッゴキッと俺の腕を真っすぐに伸ばし、一瞬で魔力を練り上げ詠唱をして回復魔法を使った。
もちろん俺は悲鳴をあげた。折れた骨を真っすぐに伸ばすためとはいえ、めちゃくちゃ痛いっす!
ただ、女性のおかげで俺の腕は元通りになった。すこし違和感はあるが、動きに支障はない。あとは魔力循環させておけばすぐに回復するだろう。
「ふーふー……痛かったぁー。お姉さん、ありがとうございました。おかげで元通りになりました」
「いいのよ、うちのグランベルがごめんなさいね」
「グランベルさんのお知り合いですか?」
「脳筋と同じパーティー【雷神の鉄槌】で魔法使いをしているミルキーよ。よろしくね」
「クライドといいます。こちらこそ、よろしくお願いします」
ミルキーさんは30歳くらいの綺麗な女性だ。バインバインの素晴らしいものをお持ちでもある。
「坊主、すまん。悪かった」
「本当よ、登録試験で腕を折るとか、信じられないわ!」
ミルキーさんがグランベルさんに詰め寄る。あの胸で詰め寄られるのは、あるいみご褒美だ。
「いや、坊主の踏み込みが鋭くて、ついな」
「何がつい、よ!?」
「あー、いいですよ。腕はこうして元通りになったのですから」
グランベルさんは平謝りしてきた。それだけでわざとじゃないと思えるからな。
「グランベル、クライドのランクはどれにするんだ?」
受付オッサンが何食わぬ顔でランクの話を始めたよ。もう少し心配してもいいんやで?
「そんなもん決まっているだろ。俺に本気を出させたんだ、本当ならBランクでもいいところだ」
「Bランクは無理だ」
「分かっているよ。Dランクだ」
「分かった。とりあえず、受付に戻るぞ」
受付オッサンが最後に〆て受付に戻ると、冒険者証をくれた。
クライドという名前と、Dランクという文字が輝いているように見えるぜ。
「Dランク冒険者の冒険者証はブロンズだ」
冒険者証はSSSが聖銀、SSとSが金、AとBが銀、CとDが青銅、EとFが黄銅、Gが木になるそうだ。
「Cランクになると、指名依頼がある場合もある」
「指名依頼、とは?」
「商人や貴族などから、名指しで依頼があるということだ」
ベルデナーグ伯爵親子みたいな貴族ばかりではないと思うが、貴族とは関わらずに生きていきたいな。
「拒否はできるのですか?」
「拒否はできるが、報酬は高くなるし、ギルドへの貢献度も高くなる。上にいきたいなら、受けるべきだろうな」
上にいきたいわけじゃない。俺は食うに困らず、ある程度の年齢になったら引退し、余生を過ごせるくらいの貯蓄があればそれでいいんだよ。
ま、拒否できるということだし、問題なしだ。
「あとは強制依頼がギルドから出る場合もある。これはその都度対象のランクは違うが、Dランクなら引っかかる可能性はあるからな。もちろん強制だから、拒否はできない」
「了解です」
「あのボードに依頼が貼られている。朝一に貼り出すことが多いから、いい依頼がほしかったら朝早くにくることだ」
「分かりました」
説明を聞いた俺は、依頼というものを見にボードに向かうのだった。




