第3話 喜んで
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第3話 喜んで
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魔力放出ができれば、次は魔力変質だ。魔力を火や風、土や水に変質させる工程だ。
そこでドアが開けられた。昨日のアピスとは違うメイドだ。
「クライドフェールン様、食事です……あら、その顔は……」
彼女はバグラメ。5年ほど前からメイド頭になった30歳ほどの女性だ。それまでいたメイド頭はよく気が利く人だったが、その人の5分の1も能力がないというのが、クライド君の評価だ。
「俺の顔がどうかしたか?」
「……い、いえなんでも」
バグラメは腐りかけのパンと塩水を置いて、空の食器を回収していく。なぜか焦ったような表情をしていたが、どうしたのだろうか?
「あ、そうか……」
鏡に映った自分を見て、手を打つ。俺の顔にあった火傷の痕がなくなったから、驚いていたのか。
「まあいいか、すぐに知れ渡ることだから」
そうそう、あの人はメイド頭とはいうが、ベルデナーグ伯爵の妾なのだとか。それでメイド頭の地位を手に入れたと、噂されている。
それよりも魔法だ。
俺は窓の縁に腰を下ろし、片足を預けた。
体内の魔力循環はいい感じだ。指先から魔力を放出することもできた。ここから先だ……。
指先からわずかに出した魔力を火に変換する……できないな。
これは難題だ。
何度もチャレンジしたが、まったくできる気配がない。
ま、できなければ考え方を変えよう。
魔力というのは、放出すると霧散してしまう。
魔力循環させることで身体強化や回復力強化ができるように、この霧散する放出魔力を何かに使えないだろうか? たとえば、霧散しないようにしたら、触手のように使えるかもしれない。
魔力を伸ばしていくと、以外と維持できた。1m、5m、10mと伸びていく。
「へー、変換は無理でも、放出はできるんだ」
指先から細さ1㎝ほどの魔力が、伸びていった。やってみたらドンドン伸びていくんですが? 限界を感じないな……。
嘘です。30mも出したら限界です。
触手を戻してみると、スルスル入ってきた。何これ、面白いですけど。
だったら、今度は指先から出す触手じゃなく、全方位に放出してみましょうかね。
「むむむー」
2時間ほどで全方位放出ができるようになった。
魔力をドンドン広げていく。半径5m、10m、20m、まだいけそうだが、ここで面白いことに気がついた。
俺が魔力を伸ばした、謂わば魔力フィールド内にあるものが、なんとなく分かるのだ。当然ながら人の動きも分かったりする。
これはいい。こんなことができるとは、思いもしなかったよ。
魔力変換できなかったことは残念だが、怪我の功名というべきか。
半径20mまで広げると、この屋敷内のある程度が把握できた。
ベルデナーグ伯爵やゴッガイル、その他家臣や使用人の動きが把握できる。
そして、俺の部屋にメイドのアピスがやってくるのが分かった。彼女はノックもせずに俺の部屋に入ってきた。躾がなってないな、この子。
「伯爵様が呼んでいるわ」
廃嫡されているとはいえ、主家の人間である俺に敬語を使わないとは、どういった教育を受けたのだろうか?
アピスについてベルデナーグ伯爵の部屋へと向かった。歩きながらも魔力フィールドを展開しようとしているが、さすがに無理だった。動きながらも魔力フィールドを展開できるように訓練が必要だな。
アピスはドアをノックした。やればできるというか、俺への認識がかなり低いということがよく分かった。
「入れ」
ベルデナーグ伯爵の声が聞こえ、ドアを開けて入った。
「クライドフェールン様をお連れいたしました」
わーお、俺を様つけで読んだよ。ハハハ。常日頃からそう呼びなさいよ、君。
ベルデナーグ伯爵は書類仕事をしており、顔を上げた。
「その顔はどうした?」
どうやら俺の顔の火傷の痕を確認したかったようだ。
「質問の意味がわかりませんが?」
「ちっ」
舌打ちし苛つく表情が、俺には何よりのご褒美だよ。
「御託はいい、火傷の痕はどうしたかと聞いている」
「治ったようですね」
「どうやって治した」
「起きたら治っていました」
「そんな戯言を誰が信じるか」
「俺の意識がない時に、誰かが治してくれたのでは? 父上では、ないですね。回復魔法が使えませんし」
「誰に向かってほざくか、この無能が!」
何かあればすぐに「無能」だ。無能と言えば、自分のちっぽけな自尊心が保てるとでもいうのだろうか?
「無能に聞かないでください。分かりませんので」
「このっ!?」
ベルデナーグ伯爵は俺に右の掌を向けると、火の球を撃った。
俺は瞬時に魔力循環をして身体能力を上げ、体をずらして火の球を避ける。
当然ながら火の球は後方のドアを破壊して燃やした。
「あーあ、早く消さないと火事になりますよ」
「ちっ。おい早く消火しろ!」
水魔法の使い手が消火を行う。てか、水を出すくらいなら、ベルデナーグ伯爵もできるのだから、自分の不始末は自分で拭えと言いたい。
「お話しは以上ですか?」
「この……」
「以上でしたら、失礼します」
「ま、待て! 待たんか!?」
問答無用で火球を撃ってくるヤツが待てと言っても、待つ気はないよ。
「えーい、貴様は追放だ! 二度と私の前に現れるな! ベルデナーグを名乗ることも許さん!」
俺はくるりと180度回転し、ベルデナーグ伯爵に向けて満面の笑みを浮かべた。
「喜んで」




