第16話 マッドサイエンティスト
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第16話 マッドサイエンティスト
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最近の日課は、宿で寝る前に魔力結界を展開し、寝ている間も維持できるか、と訓練することだ。
現在は一晩中魔力結界を維持することができているが、最初は俺が意識的に維持しなかったら1時間もすると解除されてしまった。最初は魔力の抜けによる強度の低下があったのだ。魔力が抜けないように試行錯誤していたんだけど、結局イメージを固めることが大事だと分かった。つまり、魔力結界も意志の力なのだ。魔法じゃないのにね。
しかも魔力結界や魔力触手は、俺のイメージ次第でかなり素晴らしい成果を出してくれるのだが、魔法はそうじゃない。
魔法の魔力消費を減らすために訓練をしているけど、これが一向に向上しないのだ。
駆け出しの魔法使いでも、チョロチョロ水や蝋燭の火くらいの魔法で、ここまでの魔力は消費しない。困ったものだ。
「さて、今日はゴブリンに会いにいこうかな」
昨日昇格できると聞いたけど、昇格はどうでもいいんだ。
俺が人間を殺せるかどうかより、もしかしたらモンスターも殺せないかもしれない。それを確認する必要があるのだ。
そんなことはないと思っているけど、その時になったら手が動かないなんてことになりかねないからね。
宿を出ると今日もストーキングする人たち(4人)がいる。俺は森へいくんですよー。
石畳のメインストリートを進み、王都の玄関口の大橋を渡ると王都郊外と言われるエリアに入っていく。視線の先にある森が目的地だ。
この大橋がかかっている川を下れば海なんだけど"昨日と道が違うぞ"とストーカーさんたちは焦っているようだ。
いったい彼らは何が目的なのか?
森へと進んでいくと、薬草を発見した。薬草は冒険者ギルドが5束で2,000Gで依頼を出している。
まだ未成年と思われる子供たちが薬草を採取しているので、俺は採らずに進む。
ストーカーたちはまだついてくる。もしかして俺を襲うのか? それは嫌だな。モンスターを殺せるか、先に確認させてね。
ゴブリンを発見。3体が固まっている。俺は気配を隠してゴブリンに近づいていく。
俺のストーカーたちもやってくる。気が散るので、勘弁してほしい。人気者は辛いぜー、まったく。
魔力結界で3体のゴブリンを捕縛。魔力結界内で暴れる3体だが、ゴブリンの攻撃では壊れない。徐々にゴブリンの動きが悪くなる。なんでかなと考えたら、酸欠だと思い至った。
魔力結界はゴブリンの大きさに合わせてそこまで大きくない。そんな密閉空間で暴れて酸素を消費したら酸欠になるわけだ。
この光景を見て、ちょっと顔が青くなった。俺も夜中に魔力結界を展開していたから、下手をすれば酸欠になったかもしれないのだ。部屋の大きさに合わせて展開したのがよかった。今後は酸素だけ通す魔力結界を展開できないか、試してみよう。
それはそうと、ぐったりした3体を魔力結界から解放する。すぐには元気に動き回れないようで、その間に魔力触手で3体をグルグル巻きにする。
剣を抜いて3体に近づく。周囲にモンスターはいないが、俺をストーキングしていた4人の冒険者はまだいる。手の内を見られているのだけど、魔力は他人に見えないようだから、見られても構わないか。
まずはゴブリンを殺せるか試す。剣を振り上げ、首めがけて振り下ろす。シュパッ。
少しだけ身体強化をしたが、そんなに抵抗なく首が飛んだ。首からは血が噴き出したが、魔力結界を展開して防ぐ。
「何も感じないんだが……」
俺はこんなサイコパスだったのかと思うほど、ゴブリンを殺したということに何も感じなかった。
相手がゴブリンだとしても、ここまで何も感じないのなら人間も殺せそうだが、歯止めが利かなくなるかもしれないと思うと、怖くなる。
結局、俺の敵は俺なのか? と哲学的なことを考えてしまうよ。
それは置いておいて、次はゴブリンに怪我をさせ、回復魔法の練習だ。
魔法の消費魔力が多いなら、とりあえず回復優先で魔法を使いたい。魔法は魔力消費量が半端なく多いので、大前提として俺の命の維持が一番目にあがる。
ゴブリンの二の腕を剣先で刺し、怪我を負わせる。
「グギャァァァッ」
酸欠から少し回復したのか、元気な叫び声だ。
元々は狂気をはらんだゴブリンの目に、怯えが見える。
いやいや、俺はマッドサイエンティストでもシリアルキラーでもないから、そんなに怯えないでよ。
そうじゃなくて、ヒール! 怪我よ癒えよ!
なぜか回復の時にヒールと言ってしまう件について……。どうでもいいか、こんなこと。
ゴブリンをグルグル巻きにしている魔力触手は純粋な魔力なので、その先端にイメージを溶け込ませ、魔法に変換する。
淡い光がゴブリンの怪我を癒していく。傷口はしっかり塞がり、ゴブリンも驚いているようだ。
相変わらず魔力消費量が多いと感じる、ゴッソリ感だ。
「ふむ。魔力消費量以外は、問題なさそうだな。それじゃあ、次は大怪我を治せるかだな」
しかし、ヒールでもチョロチョロ水でも同じ2割消費なんだな。
もしかして、魔法発動時の消費魔力は2割固定なのか?
「うーむ……分からん」
考えても分からないので、俺は剣を振り下ろした。
スパンッとゴブリンの腕が斬れた。
「グギャァァァッ!?」
血が飛び散るのを魔力結界で防いで、ゴブリンの悲鳴も防げるか魔力結界に意志を込める。
耳障りな音が聞こえなくなった。これができるということは、空気だけを透過させることも可能だと思う。しかも魔力の消費はほとんどない!
俺、魔法使いじゃなくて、魔力使いのほうが向いている気がする。
ゴブリンの血が拭き出したのは一瞬だったので、魔力結界を解除した。そんなに泣きわめかなくてもいいよ。ちゃんと治してあげるから。
―――ハイヒール! 腕を再生させろ!
細胞の一個一個が活性化し、細胞分裂を繰り返して腕が再生していくイメージを強く持つ。これでいいか分からないけど、ダメなら他のことを考えればいいさ。
ゴボゴボと肉が蠢いて腕が再生していく。骨もちゃんと伸びていくし、黄緑色の肌も再生していく。
「おおお、素晴らしい。ちゃんと再生したよ! なあ、手を握って開いてをしてよ」
魔力消費は安定の2割。マジで2割固定だよ……。
「グギャァァァッ!」
「え、怒っているの? せっかく腕を治してあげたのに? 恩知らずだなー」
再生させた腕をバタバタさせていることから、問題なく再生していると思う。多分。
「これなら俺が大怪我を負ってもなんとかなりそうだな!」
次は水の球をイメージする。それを出すのはゴブリンの喉の中、気道を塞ぐように。
「ゴグゴウ……」
魔力触手ででグルグル巻きにされていなかったらのたうち回っていると思うほど苦しんでいる。
1分ほどでゴブリンは動かなくなった。しっかり窒息死したようだ。
「あと1体か。大事に使わないとな」
次の検証は……。
魔力触手を解除すると、ゴブリンが飛び起きた。
そして俺に飛びかかろうと地面を蹴った。さっきまで怯えた目をしていたゴブリンとは思えない行動だ。
もちろんゴブリンは魔力結界に阻まれて鼻を強かに打って鼻血を出した。




