第1話 虐待への怒り
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第1話 虐待への怒り
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俺の人生は平凡……でもなかったが、悪い人生ではなかったと自分では思う。
人付き合いが悪く、友達がいなかったなど些細なことだ。
独身貴族と称して、結婚できない言いわけをしていたことも些細なことだ。
そんな俺が42歳の時、ショッピングモールに買い物にいったら、横断歩道を渡る少女がいた。
そして赤信号なのにスピードを緩めないトラックが見えた。
ヤバい。そう思った俺は、無意識に飛び出していた。
少女を庇うように抱きかかえた瞬間、体中に激痛が走り、俺は空を飛んでいた。柄にもないことをしてしまったが、少女が救えたかもしれないのだから、これでよかったと思うようにした。
俺なんかより未来がある少女の命のほうが重いからな。
その直後、地面に頭から激突し、意識がなくなった。
―――どうやら俺は生きていたようだ。目を開けると、木目が美しい天上が見えた。
「知らない天井だ……」
ああ、そうか。ここは病院……にしては、随分と古風な部屋だな? 壁はコンクリ……じゃなく石か? 病院じゃないのか?
それはともかく、かなりの速度を出していたトラックに轢かれたはずなんだが、生きているようだ。悪運だけはあるのかな、俺。
しかし、あの女の子は大丈夫だったかな。大怪我してなければいいけどな。瞬間しか見てないけど、かなりの美少女だったから将来はきっと美人さんになるだろう。
上半身を起こそうとすると、頭がズキンッと痛んだ。
「うっ……ぐあっ……あぁぁぁ……」
いきなり歪な映像が俺の意識を占領する。まるでフラッシュバックのような映像が脳を引っ掻き回していくようだ。
これはなんだ? 俺は何を見ているんだ!?
「あぁぁぁ……」
―――そうか。俺は転生したのか。
この体は俺のものではない。というと語弊があるな。
この体は少し前まで、俺のものではなかったが、今は俺のものだ。
この体の持ち主であるクライドフェールン・ベルデナーグは死んだ。弟が放った火球が頭部に当たり、生死の境を彷徨い死んだのだ。
その体に俺の魂が入ったのか、元々俺の魂が入っていて入れ替わったのかは不明だが、今は俺の魂が体の生命を維持している。
クライドフェールン君はまだ14歳だが、可哀想な人生を送ってきた。
この世界には魔法があるのだが、魔力はあっても魔法が使えない体質だったことで、父親から廃嫡されただけでなく、育児放棄までされた。さらには新しく継嗣になった同じ年の弟のゴッガイルが、廃嫡されたクライドフェールン君を虐めはじめたのだ。そしてゴッガイルはクライドフェールン君を的にして、魔法の訓練を行った。
クライドフェールン君の体中には、ゴッガイルの魔法によって焼かれた火傷の痕がある。
「……これは虐めではなく、殺人だよな」
クライドフェールン君は耐えたよ。何度殺されかけても耐えた。
だが、昨日、それは起った。クライドフェールン君が歩いていたら、いきなり側頭部に火球が当たったのだ。
薄れゆく意識の中でクライドフェールン君が見たのは、ゴッガイルの下卑た笑みだった。
そして、今に至るわけだ。
俺はクライドフェールン君になり代わって怒っていいと思う。
今は怪我の痛みと、クライドフェールン君の14年間の記憶が流れ込んだ不快感で酷い気分と怒りで溢れかえっている。
「しかし……このままでは、俺も殺されるよな?」
クライドフェールン君には悪いが、俺はこの家の人たちを軽蔑することはあっても、家族として認識はできない。むしろ敵だ。
身を守る術がいる。
クライドフェールン君……名前が長いので、愛称としてクライド君と呼ぼうか。そのクライド君の魔力は非常に多い。魔力だけならこの国に右に出る者はいないと言われた。
クライド君はそれほど多くの魔力を持ちながら、魔力を魔法に変換することができなかったのだ。
「俺が生きるためには……」
魔法を鍛える。
クライド君がやれなかったことを、俺がやる。そしてこんな家とはおさらばだ。
クライド君は魔法が使えなかったことをコンプレックスに思い、色々な魔法関連の書物を読み漁った。
おかげで彼の記憶を持つ俺も、その知識を共有できている。
どうせ体が痛くて起き上がれないのだから、手始めにクライド君がやっていた魔力循環をやってみる。
心臓の横にある魔力の塊を引き延ばしていき、体中に行き渡らせる。
一時間ほど魔力循環をしていただろうか、そこで俺なりに気づいたことがある。
クライド君の魔力循環は、なんというか……中途半端だ。手は手首まで、足は足首まで上半身は首まで。手先、足先、頭部に魔力が行き渡っていないのだ。
それを十分に行き渡らせるてみようと思う。
まずは左手の手首より先に魔力を送る。手首まで送れるのだ、その先にも送れるはずだ……よし、できた!
多少詰まった感覚だが、慣れてないせいだろう。
次は右手を……よしよし、いいぞ。
さらに左足、右足、そして頭部へと魔力を循環させる。




