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雑用係だと思っていた俺の貢献値が、なぜか学園最高記録だった件  作者: 空城ライド


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第8話 前提条件

 次の試験は、学園でも指折りの規模だった。


 参加生徒は百名以上。

 会場は三か所同時使用。

 実技・判断・連携を同時に測る、総合試験。


「……正直、面倒だな」


 俺は資料をめくりながら、小さく息を吐いた。


 動線図。

 配置表。

 時間割。


 どれも単体なら、まだいい。

 問題は――それらが同時に動くことだ。


「ここが詰まると、全部止まる」


 赤ペンで、会場中央に印をつける。


 人が集まりやすい。

 判断が遅れやすい。

 トラブルが起きた時、逃げ場がない。


「……先に潰しておくか」


 誰に頼まれたわけでもない。

 だが、見えてしまった以上、放っておけなかった。



 調整科の部屋では、いつもより人数が多かった。


「今回の試験、かなり大掛かりですね」


「準備、間に合うかな……」


 不安の声が上がる。


 俺は、全体図を机に広げた。


「まず、ここ」


 指で示す。


「この通路、二列進行にする。

 一列だと、絶対に詰まる」


「え、でも去年は――」


「去年は、参加者が少なかった」


 即答。


「今回は、無理」


 一瞬、空気が止まる。


 だが、誰も反論しなかった。


「次に、待機位置。

 ここを分散させる。

 固まると、指示が通らない」


「……確かに」


「最後に、連絡役を固定する。

 毎回変えると、伝達が遅れる」


 言いながら、俺は自分でも不思議に思っていた。


 ――なんで、こんなに自然に話してるんだ?


 普段は、もっと遠慮している。

 口出ししすぎないように、気をつけている。


 だが今回は、違った。


「失敗したくない」


 その気持ちが、前に出ていた。



 教師が一人、部屋の隅でその様子を見ていた。


(……もう、“相談”じゃないな)


 これは、提案でも助言でもない。


 前提条件だ。


 彼が言う通りに組まなければ、

 試験そのものが成立しない。


「……この配置で行こう」


 教師が、そう言った。


 調整科の生徒たちが、一斉にこちらを見る。


「……いいんですか?」


「問題が起きたら、私が責任を取る」


 教師の声は、静かだが揺るがなかった。



 準備が進むにつれ、奇妙な変化が起き始めた。


「次の確認、彼に聞いてからで」


「この判断、調整科に回そう」


「……いや、あの人に確認しよう」


 “調整科”ではない。

 “あの人”。


 名前は、まだ出ない。

 だが、指し示す先は一つだった。


 俺は、その空気に気づかないふりをしていた。


「ここ、修正しといた方がいい」


「了解です」


 返事が、即座に返ってくる。


 以前なら、

 「本当に必要か?」

 という一拍があった。


 今は、ない。



 夕方。


 教師が、そっと声をかけてきた。


「……疲れていないか」


「大丈夫です」


 事実だった。


 不思議と、疲労は少ない。


 全体が、うまく回っている。

 無駄な修正が、ほとんどない。


「君がいると、準備が静かだな」


 教師の言葉に、俺は少し考えた。


「……騒がしいより、いいですよね」


「ああ」


 一瞬、教師が笑った。



 夜。


 管理棟の記録室では、

 またしても数値が更新されていた。


「……準備段階で、これか」


 《貢献値》の増加は、

 試験前にもかかわらず、

 すでに異常域に達している。


「名前を出さないのが、難しくなってきたな」


「……試験当日だ」


 誰かが言った。


「当日、

 彼を呼ばなければ回らない瞬間が来る」



 その頃、俺は部屋で、最終確認のメモを閉じていた。


「……これで、大丈夫なはず」


 自分に言い聞かせるように呟く。


 だが、心の奥に、

 小さな予感が芽生えていた。


 ――もし、当日。

 想定外が起きたら。


 その時、

 俺はどこまで踏み込むつもりなんだろう。


 名前も、肩書きもないまま。


 その答えは、

 もうすぐ、出る。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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