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雑用係だと思っていた俺の貢献値が、なぜか学園最高記録だった件  作者: 空城ライド


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第6話 外された編成

 その編成変更は、意図的だった。


「今回は、調整科の意見を入れずに進める」


 教師の一人がそう言った時、

 実技科の数名が、露骨に安堵の表情を浮かべた。


「やっとか」


「正直、あの雑用の口出し、邪魔だったしな」


 俺はその場にいなかった。

 呼ばれていなかったし、聞かされてもいなかった。


 ――それでいい。


 最近、仕事が増えすぎている。

 一つくらい、俺が関わらない演習があっても問題ない。


 そう思っていた。



 演習は、学園でも難度が高いとされる内容だった。


 複数の模擬魔獣。

 制限時間あり。

 前衛と後衛の連携必須。


「行くぞ!」


 実技科エリートが号令をかけ、前に出る。


 最初の数分は、順調だった。


 だが――

 少しずつ、歯車が噛み合わなくなる。


「左、遅れてる!」


「前に出すぎだ、戻れ!」


「誰が指示出してるんだ!?」


 声が重なり、動きがばらける。


 後衛は判断を待ち、

 前衛は独断で突っ込む。


 結果、陣形が崩れた。


「……被弾!」


 防御が間に合わず、一人が倒れる。


 救護班が動く。


 演習は、そこで中断された。



 静まり返る演習場。


「……どうしてだ」


 実技科エリートが、唇を噛む。


「前と、同じ編成のはずだろ……」


 違う。


 前と同じ“つもり”なだけだ。


 以前は、

 誰が無理をしやすいか。

 誰が迷いやすいか。

 どこで詰まりやすいか。


 そういった細部が、

 知らず知らずのうちに調整されていた。


 それが、今回は無い。



 教師室。


「……失敗したな」


 誰かが、低く呟いた。


「偶然じゃない」


「調整が入らないと、こうなる」


 白髪交じりの教師は、黙って腕を組んでいる。


「……呼び戻すべきか」


 別の教師が言う。


「いや」


 即答だった。


「まだだ。

 彼は“必要になった時”に呼ぶ」


「それは……」


「今は、こちらが試されている」


 教師たちは、重く頷いた。



 その頃、俺は別の演習場で、備品の確認をしていた。


「……ん?」


 遠くから、救護用の合図が聞こえる。


「誰か、怪我したのか」


 胸が、少しだけざわつく。


 だが、俺は足を止めなかった。


 呼ばれていない。

 それだけのことだ。


 揉めるくらいなら、

 俺が動かない方がいい時もある。



 夕方。


 演習失敗の報告が、調整科にも回ってきた。


「久しぶりだな……この内容」


「被弾、連携不全、指示混乱」


 書類を見た調整科の生徒が、顔を曇らせる。


 俺は、何も言わなかった。


 ただ、メモに一行だけ書き足す。


――調整不在時、失敗率上昇。


「……当たり前、か」


 独り言のように呟く。


 だが、その一行は、

 教師たちにとっては決定打だった。



 夜、管理棟。


「はっきり出ましたね」


「ええ」


 水晶板には、二つの波形が並んでいる。


 調整が入った演習。

 入らなかった演習。


 差は、明確だった。


「……もう偶然とは言えない」


「名前を出しますか?」


 しばしの沈黙。


「いや、まだだ」


 結論は、変わらない。


「彼が“外された時”に、

 世界がどうなるか――

 それを、もう少し見たい」



 俺は、その夜も自室でメモを整理していた。


「……次は、どう組むか」


 誰にも頼まれていないのに。


 誰にも評価されていないのに。


 それでも、考えてしまう。


 それが、雑用係の性分だった。


 ――そして、

 学園にとって“外せない存在”になりつつあることを、

 まだ知らない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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