第6話 外された編成
その編成変更は、意図的だった。
「今回は、調整科の意見を入れずに進める」
教師の一人がそう言った時、
実技科の数名が、露骨に安堵の表情を浮かべた。
「やっとか」
「正直、あの雑用の口出し、邪魔だったしな」
俺はその場にいなかった。
呼ばれていなかったし、聞かされてもいなかった。
――それでいい。
最近、仕事が増えすぎている。
一つくらい、俺が関わらない演習があっても問題ない。
そう思っていた。
*
演習は、学園でも難度が高いとされる内容だった。
複数の模擬魔獣。
制限時間あり。
前衛と後衛の連携必須。
「行くぞ!」
実技科エリートが号令をかけ、前に出る。
最初の数分は、順調だった。
だが――
少しずつ、歯車が噛み合わなくなる。
「左、遅れてる!」
「前に出すぎだ、戻れ!」
「誰が指示出してるんだ!?」
声が重なり、動きがばらける。
後衛は判断を待ち、
前衛は独断で突っ込む。
結果、陣形が崩れた。
「……被弾!」
防御が間に合わず、一人が倒れる。
救護班が動く。
演習は、そこで中断された。
*
静まり返る演習場。
「……どうしてだ」
実技科エリートが、唇を噛む。
「前と、同じ編成のはずだろ……」
違う。
前と同じ“つもり”なだけだ。
以前は、
誰が無理をしやすいか。
誰が迷いやすいか。
どこで詰まりやすいか。
そういった細部が、
知らず知らずのうちに調整されていた。
それが、今回は無い。
*
教師室。
「……失敗したな」
誰かが、低く呟いた。
「偶然じゃない」
「調整が入らないと、こうなる」
白髪交じりの教師は、黙って腕を組んでいる。
「……呼び戻すべきか」
別の教師が言う。
「いや」
即答だった。
「まだだ。
彼は“必要になった時”に呼ぶ」
「それは……」
「今は、こちらが試されている」
教師たちは、重く頷いた。
*
その頃、俺は別の演習場で、備品の確認をしていた。
「……ん?」
遠くから、救護用の合図が聞こえる。
「誰か、怪我したのか」
胸が、少しだけざわつく。
だが、俺は足を止めなかった。
呼ばれていない。
それだけのことだ。
揉めるくらいなら、
俺が動かない方がいい時もある。
*
夕方。
演習失敗の報告が、調整科にも回ってきた。
「久しぶりだな……この内容」
「被弾、連携不全、指示混乱」
書類を見た調整科の生徒が、顔を曇らせる。
俺は、何も言わなかった。
ただ、メモに一行だけ書き足す。
――調整不在時、失敗率上昇。
「……当たり前、か」
独り言のように呟く。
だが、その一行は、
教師たちにとっては決定打だった。
*
夜、管理棟。
「はっきり出ましたね」
「ええ」
水晶板には、二つの波形が並んでいる。
調整が入った演習。
入らなかった演習。
差は、明確だった。
「……もう偶然とは言えない」
「名前を出しますか?」
しばしの沈黙。
「いや、まだだ」
結論は、変わらない。
「彼が“外された時”に、
世界がどうなるか――
それを、もう少し見たい」
*
俺は、その夜も自室でメモを整理していた。
「……次は、どう組むか」
誰にも頼まれていないのに。
誰にも評価されていないのに。
それでも、考えてしまう。
それが、雑用係の性分だった。
――そして、
学園にとって“外せない存在”になりつつあることを、
まだ知らない。
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