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雑用係だと思っていた俺の貢献値が、なぜか学園最高記録だった件  作者: 空城ライド


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第2話 相談窓口

 調整科の仕事は、思っていた以上に地味だった。


 書類整理。

 連絡役。

 備品の確認。


 そして――相談窓口。


「……で、聞いてる?」


 机の向かいで、同学年の男子生徒が腕を組み、不満げに眉をひそめていた。

 どうやら、話の途中で俺が考え事をしていたらしい。


「ああ、ごめん。続けて」


「だからさ、あの編成おかしいだろ。

 前衛三人とも突っ込み癖あるし、後衛は判断遅いし。

 あれじゃ噛み合うわけない」


 彼の言葉には、苛立ちよりも疲れが滲んでいた。


 実技演習で組まれたチームが上手くいかず、

 不満をぶつけに来た――というより、

 誰かに聞いてほしかっただけなのだろう。


「……なるほど」


 俺は頷きながら、手元の簡易記録に視線を落とす。


 前衛三人は全員、瞬間火力型。

 反射で動くタイプが重なると、連携は崩れやすい。

 後衛は慎重派で、指示待ち傾向が強い。


 個々の能力は高い。

 ただ――組み合わせが悪い。


「この編成、誰が決めたんだ?」


「教師だよ。成績順で並べただけだろ」


 ありがちな話だ。


 能力の高さと、相性は別物。

 それを分けて考えるのは、意外と難しい。


「一つ、提案なんだけど」


 俺はペンを置いて顔を上げた。


「前衛の一人を、慎重派と入れ替えた方がいい。

 突っ込む役が二人いれば十分だし、

 後衛に即断できる人が一人入れば、全体が安定する」


「……それ、意味あるか?」


 半信半疑の表情。


「やってみれば分かると思う」


 俺自身も、確信があったわけじゃない。

 ただ、揉め続けるよりは試す価値がある。


「俺から教師に話しておくよ」


「え、いいのか?」


「仕事だから」


 それだけ言って、俺は立ち上がった。


 ――目立つのは得意じゃない。

 でも、誰かが楽になるなら、それでいい。


 それが、俺の基準だった。



 翌日の実技演習。


 チーム編成が一部変更されていた。

 教師は特に理由を説明しなかったが、

 参加者の間に小さなどよめきが走る。


「なんで俺が後衛に?」


「前衛、減らされた?」


 不満の声もあったが、演習は始まった。


 結果は――明確だった。


 突っ込みすぎていた前衛が一歩引き、

 後衛に回った即断型が、指示を飛ばす。


 無駄な被弾が減り、

 連携が噛み合い、

 討伐時間は大幅に短縮された。


「……なんだこれ」


 演習後、例の相談者が呆然と呟いていた。


「今までで、一番やりやすかった」


「そうか」


 俺は軽く頷いただけだ。


 成功した理由を説明するつもりはない。

 必要なのは、結果だけだ。


 教師の一人が、こちらをちらりと見た。

 だが何も言わず、記録を付けている。


 ――気のせいだろう。


 俺はそう思い、次の仕事に向かった。



 その日の夕方。

 相談窓口には、もう一人、生徒が来ていた。


「……あの、話、聞いてもらえますか」


 不安そうな声。


「もちろん」


 俺は椅子を勧める。


 話を聞けば、今度は技術科の生徒だった。

 演習で失敗が続き、自信を失っているという。


 道具は悪くない。

 手順も合っている。

 ただ――時間配分が致命的に下手だ。


「この工程、後に回した方がいい」


「え?」


「先にここを固めれば、焦らなくて済む」


 簡単な指摘。

 だが、彼の目が少しだけ明るくなる。


「……やってみます」


 それでいい。


 答えを与える必要はない。

 気づくきっかけだけあれば。



 夜、管理棟。


「今日も、数値が動いてるな」


 記録係の職員が、低く呟いた。


 《貢献値》のグラフは、なだらかだが確実に上昇している。

 派手さはない。

 だが、止まる気配もない。


「……相変わらず、名前は伏せたまま、か」


 上層部の判断は変わらない。


 まだ表に出す段階ではない。

 まだ、様子を見る。



 その頃、俺は自室で、簡単なメモを書いていた。


 誰がどんな癖を持っているか。

 どこで詰まりやすいか。

 何をすると楽になるか。


「……増えてきたな」


 紙束を見て、そう呟く。


 だが、それを特別なことだとは思っていない。

 ただの雑用。

 ただの整理。


 それが、俺の役目だ。


 ――この時点では、まだ。

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