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雑用係だと思っていた俺の貢献値が、なぜか学園最高記録だった件  作者: 空城ライド


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第10話 名前が持つ重さ

 翌朝。


 学園の空気は、わずかに変わっていた。


 掲示板の前で、数人の生徒が立ち止まっている。

 試験結果の速報――その下に、簡単な注記が添えられていた。


※進行・調整において特筆すべき貢献あり


 名前は書かれていない。

 だが、誰のことかは、もう分かっていた。


「……ユウ、だよな」


「昨日、第二会場まとめたって」


「調整科の……?」


 小さな声が、廊下を流れていく。


 俺は、その横を何食わぬ顔で通り過ぎた。


 名前を知られたからといって、

 俺自身が変わったわけじゃない。


 ――仕事は、仕事だ。



 実技科の演習場。


「……気に入らねぇ」


 剣を肩に担いだまま、彼は吐き捨てるように言った。

 第3話で対峙した、あの実技科エリートだ。


「たった一回、指示が通ったくらいで……」


「でも、事実だろ」


 仲間の一人が、静かに言う。


「昨日の混乱、あいつが止めた」


「だから何だ」


 声が荒くなる。


「俺たちは、前から結果を出してきた。

 それを――裏方一人で評価ひっくり返されてたまるか」


 怒りの矛先は、俺ではない。


 “自分たちの立場が揺らいだこと” そのものだ。



 一方、教師室。


「早いですね。噂が回るのは」


「仕方ありません」


 白髪交じりの教師が答える。


「名前が出た以上、

 彼はもう“個人”として見られる」


「問題は――」


「ええ」


 教師は資料を閉じた。


「これからは、

 彼を外した判断が、すべて比較対象になる」



 調整科の部屋。


「……ユウ」


 初めて、同級生が俺の名前を呼んだ。


「ん?」


「その……昨日は、すごかったな」


「そう?」


「うん。

 正直、助かった」


 ぎこちないが、悪意はない。


「仕事だよ」


 それだけ返すと、彼は少し困った顔で笑った。


「……そういうとこだよな」


 何が“そういうとこ”なのかは、よく分からない。



 昼休み。


 教師から、正式な依頼が入った。


「今後の演習だが――

 事前の編成案を、君に一度通したい」


 一瞬、間があった。


 俺は、答えを考える。


 引き受ければ、確実に忙しくなる。

 断れば、昨日の判断が“例外”になる。


「……分かりました」


 短く、答えた。


 逃げる理由は、もうない。


「ただし」


 付け加える。


「最終決定は、教師がしてください」


「当然だ」


 教師は、はっきりと頷いた。


 ――責任を一人で背負う気はない。

 それでいい。



 その日の夕方。


 実技科エリートが、俺の前に立った。


「……ユウ、だったな」


「何か用?」


 警戒はしない。

 だが、距離は保つ。


「昨日の件だ」


 一瞬、言葉を探すように視線が泳ぐ。


「……礼を言う気はない」


「別に、求めてない」


「だが――」


 拳が、強く握られる。


「次は、

 あんたを外して、成功させてみせる」


 宣言。


 敵意ではある。

 だが、卑怯さはない。


「そう」


 俺は、それだけ答えた。


「失敗しないといいね」


 挑発ではない。

 事実だ。


 彼は、言葉を返さず、踵を返した。



 夜。


 管理棟の記録室で、

 《貢献値》のログが、静かに更新される。


「……個人名が紐づいた途端、増加幅が変わりました」


「当然だ」


 白髪交じりの教師は、画面を見つめる。


「これからは、

 “彼がいる前提”と“いない前提”が、

 すべて比較される」


「それは――」


「ええ。

 彼にとって、一番厳しい段階です」



 学園は、今日も無事に終わった。


 誰も欠けず、

 誰も潰れず、

 誰も過剰に背負わない形で。


 その裏で、

 一人の調整役が、

 淡々と役割を果たしている。


 それが、

 この物語の結論だ。


 静かに。

 確実に。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

本作は、この話をもって完結です。


この物語は、

目立つ者ではなく、

仕組みを支える存在を描いた物語でした。


ユウは前に立ちません。

けれど、彼がいることで物事は回ります。

それだけで十分だと、作者は考えました。


最後までお付き合いいただき、

ありがとうございました。


この物語はここで一区切りですが、物語を書く手はまだ止まっていません。

ほかの世界の話もありますので、よければ覗いてみてください。

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