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一章



 放課後のチャイムが鳴ると、教室内の空気がふっと緩んだ。机と椅子のガタガタという音が一斉に立ち上がり、友人同士で固まりながら教室を出ていく者、部活へと急ぐ者、それぞれの放課後が始まっていく。


だが、昴たち六人は教室の隅に残っていた。窓際に寄せられた机を囲んで、皆の視線が自然と桐生と山根に集まっている。


「で、さっきの話だけどよ」桐生が腕を組んで偉そうに言った。


「七不思議って、実は学校公認の行事でもないし、調べてる奴もあんまりいねえ。だからこそ、俺たちで調査する価値があるってもんだ」


「うんうん」山根が頷きながら、自分の鞄からノートを取り出した。


 「私はね、ここ数ヶ月、夜の校舎に忍び込んで写真撮ってたの。大男は無いんだけどね。偶然、写っちゃったんだよね……影とか、赤い目とか」


「赤い目?」遥が眉をひそめる。「それは、具体的にはどういうもの?」


「待って、順番に話すよ」


桐生が指を一本立てた。


「まずは、七つの怪談について簡単に説明するな」


彼は山根とアイコンタクトを取ってから、一つ一つ指折りながら語り始めた。


---


① **首吊り女教師**

「これは旧校舎三階の女子トイレ。昔、美人な若い先生が自殺したって噂。男子生徒にイタズラされた末、精神を病んで首を吊った。夜になると、何もない天井から黒髪が降ってきて、輪っかができて、首を絞められるらしい」


② **増える階段**

「旧校舎の屋上へつなぐ階段。普通に登ってたはずなのに、数を数えると一段多くなってる。その増えた一段を踏むと、違う場所に連れてかれるって話」


③ **音楽室の悲鳴**

「放課後の音楽室で、誰もいないはずなのにピアノが鳴る。その音に気を取られると、悲鳴が聞こえる。でも誰もいない。防音構造のせいで、中からは助けを呼べないらしい。なのに聞こえる。不思議だろ?」


④ **走り回る大男**

「夜の廊下で、ものすごいスピードで走り抜ける影がある。音だけが先に聞こえてきて、ぶつかると即死って話。姿を見た奴はいない。俺も音だけ。」


⑤ **職員室の黒い影**

「職員室の窓に映る黒い人影。しかも、首がない。深夜に見たら、次の日には何か悪いことが起きるってジンクスがある。勿論警備の人の噂だ。」


⑥ **旧校舎の赤い目**

「旧校舎の三階、誰も使ってない教室に、窓越しに赤い目がじっと見てくるって。写真にも映る。たまにガラスが割れるって話もある」


⑦ **さえこさん**

山根がここで声をひそめた。「これは最近になって追加された新しい怪談。『さえこさん』って名前だけが囁かれてて、詳しい話は誰も知らない。でも、彼女の名前を夜中の校舎で言うと呪われるって……」


遥が腕を組んで考え込んだ。「最後のそれ……2年前のと関係ある?霧島冴子きりしまさえこと。」


 田中がピクリと反応する。


 「霧島冴子って、俺たちが小五のときに失踪した?」


 3年前の出来事だ。ここから遠くない小学校で起きた失踪事件。それは山根をのぞく他のメンバーが皆知っている出来事だった。おとなしい性格の彼女が放課後、集団下校の際、体調不良で親に迎えに行ってもらう予定だったが、保健室より失踪。その後警察および自治体により捜索が行われたが、彼女の痕跡は見つからず、神隠しに遭ったとされた。

それはこの田舎の中学ではおかしくないと地区全体の共通認識だった。



 「霧島冴子の神隠し…ね。そんなことがあったからこの怪談ができたのか。ほとんどが同じ小学校から上がってきた人ばかりだもんね。」


 山根以外が頷き返し、さえこさんという怪談が出ていることに驚いている。

 

「俺たち、調べに行くべきだと思うぜ」桐生が拳を握る。


「だろ!?」田中が叫んだ。「別にオバケが見たいわけじゃないけど、怪談ってワクワクするじゃんか!」


「昴も遠慮なく参加しろよ!」桐生が笑いながら指をさした。


「え?」昴が一瞬だけ目を瞬かせる。笑顔を浮かべるが、瞳の奥が一瞬だけ曇った。


「お前が来ないと、バランス悪いしな!」田中が陽気に言って、鷹取の肩を叩く。


「で、夜に忍び込むのは明後日の金曜。ちょうど満月なんだってよ。それもブラッド・ムーン」


「ブラッド・ムーンってのも不吉っぽくていいよね〜!」山根が無邪気に笑った。


昴は一同の熱気の中、うなずくしかなかった。窓の外、薄暗くなりかけた夕空の下、旧校舎の三階がわずかに影を伸ばしていた。

その影が、昴の目にだけ、不自然に蠢いているように見えた。


「じゃあ、十二時に新校舎裏に集合で、そこに山根が知ってる秘密の入り口があるからよ。」


 ふふん。と山根は胸を張り、自慢げに言った。


「私は何度も侵入してるからプロよ。任せなさい。」


桐生以外の男子は張り出した山根の胸に視線がいったが、遥の冷めた視線に気づき皆目を反らした。


 「げふん……じゃ、また後でな!」



 田中が意気揚々と声を上げて昴の肩を掴み教室を出た。組んだ腕から熱が伝わる。

暑苦しい。


 「おい!やったな。遥ちゃんと一緒に肝試しだ!」


 田中の浅はかな考えに何度目かわからないため息をつきつつ、帰路についた。


 





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