どう仕様もなく
この会社は残業と云っても、残業手当が付くわけでもなく、毎月の給料にみなし残業が僅かばかり付くだけだ。君は愚痴さえ溢すこともなく、仕事に対して真摯に取り組む態度を見せていた。それでも…、その評価は高いものではなかった。それは君もどこかで、気付いていた。
私が会議を終えたころ、もう日暮れて外は薄暗くなっていた。君はどう仕様もなく仕事をしていた。君が悲しそうな表情で呟く。
「もう四十歳が近くなってきましたけど、どうして結婚も出来ないか解らない」
君は何も解っていない。私はどう説明し、どう伝えればと悩んでしまったが、すぐに応えは出せず、君に思い付いたようなことを云ってしまった。
「私は…、君が仕事にかまけているからだとおもいます」
君はいつになく不服的に訴えてきた。
「じゃあですよ。この仕事を放り投げて、女性のように、定時で速やかに帰宅すればいいですかね」
私は何かを返そうとしたが、何も云うことが出来なかった。君は私の存在を無視して、また仕事だけに打ち込んでいく。
私にしてみれば、君はあはれか…
君は仕事が出来ること―、それは認めるところかも知れない。そうだとしても、仕事は程々にして欲しい。それは将に、同情として、それとはもしかして―、コイゴコロなのか。そんなことは… 私の頭の中は混乱していた。私はデスクについて、君の仕事に打ち込む姿をずっと見詰めてしまった。そして私はコイなのかどうかを、自身の内で問い詰めていた。
メモは…、メモ、メモリー、CPU、DX化、AI、繋がっていく。
ではコイは… コイ、恋愛、自虐、破局、連鎖。
また頭の中が混乱していく。私ではどうせ上手くいかない。
私ごとき人々の儚さは―、同情としよう。んっ…、もしかして、私も同情されるべき人々の一人―、とも最初から解っていたと云うことか。
私は額に汗をかき、動悸がして心音が高鳴った。しかし、それは運命。私は自宅で缶ビールを飲み干し、その動悸を一人で淋しく鎮めていた。