不正
私は会議での音声を書き起こしていた。この仕事はあまりにも詰まらない。音声を書式にオートメーションで書き起こすも、まだ精度は今いちで、宇宙人の書いた文章だと云ったところ。これでは酷く滑稽だと呆れて仕舞いたくなるが、この宇宙人の書き起こした文章に校正を入れていく。
私の仕事は書き起こし、これで終了となる。君の番は次。書き起こしをチームの共有BOXに入れ、君に社内メールを送った。君はすぐにメールに気付き、共有BOXの書き起こし文を確認した。これは会議録にしなければならない。それはすぐに解ったようだった。私は澄まし顔でディスクトップに視線を向けたが、君は不満顔で覗き込んでいた。私は顔を向き背き、トートバッグを抱えて、もうすでに定時を過ぎてしまったオフィスを去って行った。君は残業を押し付けられ、まったくだと項垂れていた。
PCに向かい溜め息をつき、書式に従いタイピングして行く。書き起こしと照らし合わせ、会議録の作成を進めていく。書き起こしを読み進めるうちに、その手が止まってしまった。
昨今、我が社の内外で、特に酒の席で、社の失態を暴露する者、会社批判を繰り返す者、社のイメージを損なう陰口を叩く輩が多く…
君は書き起こし文を目の当たりにして、冷や汗をかき愕然としてしまった。壁に耳ありとはこのこと。だとしても君は与かり知らないところ。君は会議録の改ざんを思いつく。しかしこれは不正。それは十分に解っているが、これではその輩の人々と―、まったく変わりはないと認めざるを得ない。君の決意は固まったが、その文言についてどうすればいい。それを考え始めることになった。時計の針は刻々と時を刻む。ディスクトップの時刻が二十二時に近づいたころ、漸く適切で纏まった文言を思いついた。
我が社の評判、評価が低迷している。これを纏めた調査結果では、営業利益の低下から来るものと報告を受けた。営業利益の低下は、この不況と経済の低迷、金融不安に於いて…
君は良く出来た見栄えのする文言だと、自画自賛して会議録の作成を徹夜で続けた。
君は将に今となっては、後悔の念があるかも知れない。不正とは―、社会の潤滑剤であると共に、失態を補うものとして、これを解釈するほかはなく残念。私としてはこの世の中の仕来り。君はそれに迷っただけのこと。それも―、今はすでに同情としよう。