表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

シャンパン

 私はこの話を彼に持ちかけた。彼も同僚として気にかけていると云っていた。君の落ち込み方はそれこそ見ていられない。夜の街で食事をし少しお酒でも(たしな)めば、君の損ねた機嫌も元に戻ることになる。私の言葉が伝えた通りに彼は上手く誘ってくれた。オフィスは定時を迎え各々が帰路についた。私たちもオフィスからロビーに向かい、彼が歓楽街に向かう為のタクシーをアプリで捕まえてくれた。

 私はタクシーがすぐに来るとは思わずに驚いてしまった。君は最初に乗り込みその後に彼が、そして私がタクシーに乗ったのは最後だった。私は車内でスプリングコートのシワを気にした。君もシワは気になるのか、君のスーツのシワにも目配りを始めた。私は云った。

「私の安物のコートにシワが…参ってしまいます」

 君は優しそうにタクシーの中で笑い、繁華街までの道程(みちのり)を歓談を踏まえて楽しんでいた。私は夜遊びはしない女性だけど、彼は大人の遊び方を知っていた。彼は飲食店に予約は入れない。それだけ遊べる飲食店を知っていた。彼の語り口ではそれが粋と云うものだ―、と気さくに笑って応えた。

 彼はいきなり酒場に向かった。それはBARと呼ばれる盛り場だった。私は驚いて君の顔を覗ったが、君も驚いている表情をしていた。私は食事のつもりで君を誘ったが、彼とすれば最初から飲み会のつもりだったのか。彼はやはり店の馴染みで、左手を軽く挙げてカウンターについた。その方が粋なのか。彼はバーテンダーに軽い会話を挟んで云った。

「シングルモルトのウイスキーを」

 君は少し悩んだあとで云った。

「スコッチの良いものを」

 それで私はどうすれは…私は困ってしまい、メニューをずっと眺めてしまっていた。彼は気を利かせて云ってくれた。

「シャンパンかスパークリングワインはどうだろう。女性でも飲みやすいと思うよ」

 私は迷うことなくシャンパンと応じていた。君はフルーツのオードブルを、粋のある語りを残してオーダーし、ウイスキーをロックで嗜み、いつもと違う語り口で仕事の話を交わしていた。

 私はシャンパン。素晴らしい口当たり―、そして強めの酸味が利いていた。この更に(まろ)やかな味わい。ウイスキーをロックで飲むなんて信じられない、私は頭の中で繰り返した。ただ苦味のするだけのアルコールが、何故か美味しいと口にする男の多いこと。私は黙って大人しく飲むことにしたが、君は二杯目のウイスキーをまたロックで頼み、お酒に任せて段々と饒舌に語り始めた。

 彼は話しに相槌を打っていたが、君の話しは愚痴めいた語り口になっていく。彼は困ってしまっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ