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第4話 再会と偽りの安らぎ

山小屋は思った以上に荒れていた。


板張りの壁は所々剥がれ、隙間から湿った夜気が忍び込んでくる。小さな窓はひび割れ、薄いガラス越しに月明かりがぼんやりと射し込んでいた。


玄関の扉を押し開けたとき、心臓が止まりそうになった。


「……京子……?」


そこに、確かに京子がいた。


痩せていた。頬はこけ、唇は血の気を失っていたが、それでも京子だった。

俺の知っている、愛しい顔だった。


「公平……来てくれたんだね……」


そう言って微笑む顔が、どこか儚げで、泣きそうに見えた。


次の瞬間には、もう俺は京子を抱きしめていた。


「京子…会いたかった…」


薄い体。骨ばった背中。けれど確かに温かい。


あまりに細くなってしまった体を壊さないよう、そっと腕に力を込めた。


 

小屋の中には小さなランプが灯っていた。

そのオレンジの光の中で、俺たちは向かい合って座った。


「どこにいたんだよ……半年も……ずっと探してたんだぞ……」


京子は曖昧に微笑むだけで、ちゃんと答えようとはしなかった。


「ねぇ……私の話、ちゃんと聞いてる?」


取り留めのない昔話をしながら、京子はずっと俺の顔を見つめていた。

初めてデートしたときのこと、海へ行ったときのこと――


何度も何度も同じ話を繰り返した。


でも、それが心地よかった。

まるで失われた時間を取り戻しているようで、何度同じ話を聞いても構わなかった。


 

やがて俺は、ずっと胸にしまっていた言葉を口にした。


「結婚しよう、京子。……今すぐ籍を入れて、一緒に暮らそう。ずっと一緒にいよう」


言いながら、京子の手を取った。

細く冷たい指。そこには俺が贈った婚約指輪がまだ光っていた。


 京子は一瞬だけ目を伏せ、それから静かに首を振った。


「……ダメなの。公平……私……もう……」


「なにがダメなんだよ。俺たち、ずっと一緒だって……!」


声が震える。涙が込み上げる。


でも京子はただ悲しそうに微笑んで、俺の手をそっと撫でただけだった。


 

夜が更け、小屋の外では風が木々を鳴らしていた。

寝袋を広げると、京子はそこにすっと潜り込んできた。


細い体を抱きしめると、夢のように安らかな気持ちが胸を満たした。


これでいい。やっと京子に会えた。

ずっと待っていた。これでやっと一緒にいられる。


 

――また明日になったら、ちゃんと話をしよう。


そう思いながら、俺は薄く目を閉じた。


京子の髪が鼻先をくすぐる。

かすかに甘い匂いがして、泣きたいくらい懐かしかった。


その夜、俺は久しぶりに穏やかな夢を見た。


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