第3話 突然の連絡
京子が消えてから、半年が経った。
その間に京子の両親は、すっかり年老いたように見えた。
目を腫らした京子の母親が、ある日、俺の手を握って泣きながら言った。
「もうね……新しい人を探してあげて……お願いだから、公平くんまで壊れちゃわないで……」
京子の父親も傍らで目を閉じ、深く息を吐いた。
俺は何も言えなかった。新しい人? そんなこと、考えられるはずがなかった。
この半年、俺はずっと京子のことしか見ていなかった。探して、待って、それでも帰ってこない京子の幻ばかり追っていた。
その夜だった。
机の上に投げ出してあったスマホが、唐突に鳴りだした。
誰からだろうと液晶を見ると、心臓が一気に収縮した。
――京子。
消えたはずの京子の名前が、着信画面にくっきりと浮かんでいた。
(やっぱり生きてたんだ…。)
息が詰まり、喉の奥が焼けるように熱くなる。
指が震えて、うまく画面を押せなかった。
やっとのことで通話を繋ぐと、耳に飛び込んできたのは、忘れもしない声だった。
「……公平!?」
何度夢に見たか分からない、あの柔らかい声。
頭の芯が痺れる。涙が勝手に溢れ、頬を伝った。
「えっ、京子……? 京子、なのか……?」
「うん……ごめんね……心配かけて……」
嗚咽が混じって、言葉が詰まる。言いたいことが山ほどあるのに、何も言えない。
「今…どこにいるんだ!?」
「ねぇ、何も聞かないで……お願いがあるの。誰にも言わずに、一人で来て……。あの山小屋で、待ってるから……」
小さく、擦れるような声だった。
通話が切れる直前、微かに泣いているような気配があった。
スマホを握りしめたまま、俺はしばらくその場に立ち尽くした。
脳裏に響くのは京子の声だけだった。
――誰にも言わずに、一人で。
京子が生きている。
そんな馬鹿げたことを、本気で信じてしまった。
気がつくと、クローゼットから登山用のバッグを引っ張り出していた。
ランプ、水、非常食、地図――半年間、何度も通った装備は、何も考えずとも自然に手が動いた。
夜明け前、俺は車を走らせて山へ向かった。
人気のない林道に車を止め、ヘッドライトを消すと、一面の闇が押し寄せる。
心臓が痛いほど高鳴っていた。
――京子に会える。
その一心で、俺は濡れた山道へと足を踏み入れた。