第4話
森を抜けたのは、夜が深くなった頃だった。
満天の星空の下、俺とフィーネは焚き火を囲んでいた。
燃える炎の揺らぎと、風の音だけが、二人を包む。
「……怖くなかったの?」
ぽつりとフィーネが呟いた。
「子どもに、あんな黒い力を……自分でも、呪いかもしれないって思ったんでしょ?」
「怖かったよ」
素直に言えた。
「でも、あの子を助けられるのが俺しかいなかった。そう思ったら、止まれなかった」
「バカね」
呆れたように言ったあと、フィーネは少しだけ笑った。
「でも、そのバカさが……少しだけ、嫌いじゃない」
その言葉に、胸の奥が温かくなった。
けれど──
村のことは、気がかりだった。
助けたはずなのに、追われる立場になってしまった。
俺の癒しは、黒くて、不気味で。
正体がわからない。
それが怖いのは、俺自身も同じだ。
「ねぇ、これから、どうするの?」
フィーネが訊いた。
どうするか。
どこへ行くか。
──俺は、どこへ行けばいい?
この力は、善なのか悪なのか。
使っていいのか、封じるべきなのか。
だけど、ひとつだけ確かなことがある。
誰かが苦しんでいたら、きっと俺はまた、手を伸ばすだろう。
それが“癒し”と呼ばれなくても。
「旅を続けるよ」
そう答えると、フィーネは少し驚いた顔をして──
「……なら、あたしもついてく」
ぽつりと、そう言った。
「監視だからね。あんたがどんな災厄をもたらすのか、見届けるまで離れない」
その声には、かすかな照れが混じっていた。
闇夜の中、俺たちは焚き火を消して、再び歩き出す。
この旅の果てに、何があるのかはわからない。
だけど俺は、まだ信じたい。
この優しさが、誰かを癒せる日が来ることを。
たとえそれが、どれだけ遠くて、怖い道だったとしても──