第37話
王都セランの裁定場──
数日前の神殿前での戦いから、国中が大きく揺れていた。
聖導教会という絶対的な権力機関が崩壊し、その中枢を成していた高司祭ギゼルと幹部たちが、王家直属の監察団によって拘束されたのだ。
この日、広場には各地から多くの民が集まり、裁定を見届けるために息をひそめていた。
高司祭ギゼルは椅子に縛られ、顔面を蒼白にしていた。
以前の威厳ある姿は跡形もなく、額には冷や汗がにじんでいる。
「わ、私はただ……神の教えに……従ったまでで……」
「黙れ」
王家の使者が冷たく言い放つ。
その声に、広場中が静まり返る。
やがて、審問官が証人を呼び出した。
「証人を」
老人、若者、母親、子供……
次々と民たちが証言台に立ち、聖導教会が行ってきた非道な行為の数々が明らかにされていく。
「癒されたと思ったのに、薬をやめたらすぐに元に戻った」
「信仰が足りないから苦しむんだと、私たちは責められました」
「払えなければ、村から追い出されると脅されました……」
会場に怒りの声とすすり泣きが混ざり始める。
審問官が言い渡す。
「ギゼル高司祭以下、聖導教会幹部はすべて、公職を永久に追放、財産の没収および再審までの禁固刑に処す」
民衆の間から、小さなどよめきと拍手が起こる。
そして次に護送されてきたのは、鎖で縛られた真柴悠翔だった。
髪は乱れ、顔を伏せたまま、重い足取りで裁定台へと導かれていく。
「真柴悠翔、教会と結託し、民を欺き、神崎瑛人殿を陥れた罪──その動機を述べよ」
沈黙の中、真柴は重く口を開く。
「……俺は、瑛人が羨ましかったんだ。
何もしなくても好かれて、強くて……優しくて。
俺がどれだけ努力しても、届かないものを持ってるあいつが……憎かった」
彼の声は震えていた。
だが、その言葉には虚飾はなく、本音が滲んでいた。
「葵のことも……ただ奪えば、俺のものになると思った。
でも、何も満たされなかった。心はずっと……空っぽのままだった」
その告白に、会場は静まり返ったまま、誰も言葉を発さない。
そして審問官が告げる。
「嫉妬は罪を正当化しない。ゆえに真柴悠翔──国外追放と王都出入りの永久禁止、すべての特権を剥奪する」
広場がざわつく。
真柴は崩れ落ちそうになりながらも、最後に瑛人のほうを見た。
その目に宿っていたのは、悔しさではなく、深い後悔と──どこか安堵にも似たものだった。
そして最後に、広場の壇上へと第三王子リデルが現れる。
鎧をまとい、国民の前に堂々と立ったその姿は、すでに王としての威厳を帯びていた。
「神崎瑛人殿──あなたと共に戦えたことを誇りに思います」
リデルは深く頭を下げ、そして高らかに宣言した。
「本日をもって、聖導教会による全支配を停止し、癒しの独占体制を解体する。
新たな時代は、神の名ではなく、“人の思い”を尊ぶ時代とする」
歓声が広場を包んだ。
その中で、瑛人はそっと微笑み、頭を下げた。
「誰かが笑える未来を作れるなら、それでいいんだ」
その言葉に、フィーネと葵がそっと寄り添う。
彼は名声や権力ではなく、ただ優しさのために戦った。
そしてその優しさこそが──
この国を救った、真の王の器だった。




