表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
優しすぎる少年は“黒い癒し”で世界を救う 〜追放され、裏切られ、それでも優しさを貫いたら最強になってた〜  作者: 風谷 華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/38

第35話

 真柴が涙を流し、剣を落とした瞬間。

 神殿前広場に広がっていた戦いの熱が、まるで魔法のように一気に引いていった。


 瑛人の背中から放たれた漆黒の癒しの光が、静かに、だが確かに広場全体を包み込んでいく。

 その光は、戦いで傷ついた者たちの痛みを和らげ、疲れた心をそっと撫でた。


 兵士たちは戸惑い、剣を構えた手が次々と緩んでいく。


 「これは……癒し……なのか?」

 「黒い光なのに、心があたたかくなる……」


 広場の各所から漏れたささやきは、やがて確信の声へと変わっていった。


 ギゼル高司祭はその流れを止めようと、必死に神印の杖を掲げ、叫ぶ。


 「騙されるな! それは偽りの癒しだ! 神の教えに反する禁忌の力だ!」


 だが、その声に対し、広場の片隅から一人の老女が進み出た。


 「この手で触れた。あの子の手は……あたたかかった」


 彼女の背後に、かつて瑛人に癒された人々が立ち上がる。


 「母が治った……咳が止まらなかったのに」

 「足が動くようになった。絶望しかなかったのに……」


 証言が次々と続き、兵士たちは動揺を隠せず、剣を次々に置き始めた。


 「これが……真実なら……俺たちは、何のために戦っていたんだ……?」


 その言葉に、広場の空気が決定的に変わる。


 ギゼルの顔色が青ざめる。

 その目に、かつての絶対的な支配者の光はなかった。


 「なぜだ……なぜ民が、教会ではなく……」


 その時、リデル王子が一歩前に出て、静かに語った。


 「民が選んだのは、癒しという名の“支配”ではなく、癒しという名の“想い”です」


 その言葉と同時に、ギゼルの手から杖が滑り落ちた。

 硬い石畳に響く音が、聖導教会という巨大な支配の崩壊を告げる鐘の音のように響いた。


 ──その時、真柴は一人、膝を抱えて座り込んでいた。


 剣を落とし、泣いた後の彼の表情には、ただの敗北者にはない深い後悔が滲んでいた。


 (俺は……何をしてきたんだ)


 記憶の中に浮かぶのは、あの頃の自分。


 威圧的な父の姿。

 社長である父は、家でも権力者のように振る舞い、真柴に愛情を注ぐことはなかった。


 「できて当然だ」

 「そんなことで泣くな」


 ──褒められた記憶がない。

 期待だけがのしかかり、ミスをすれば叱責され、成功しても無言で通り過ぎられる。


 家は大きかった。

 食卓は豪華だった。

 だが、会話はいつも、空虚だった。


 友達の輪にもうまく入れなかった。

 話し方がぎこちなく、何を言えばいいか分からず、浮いてしまう。


 そんな時、目に映ったのが瑛人だった。


 ただそこにいるだけで、自然と笑顔が集まる少年。

 優しく、朗らかで、誰かを支えるのが当たり前のような存在。


 (……ずるい、と思った)


 だから、葵を奪った。

 友情を裏切った。

 

 けれど、心は満たされなかった。


 夜、ベッドに横たわるたび、瑛人の笑顔が思い浮かび、その裏にあった“何か”を理解できなかった自分が、悔しくて、情けなくて、涙が止まらなかった。


 (俺は……何も手に入れてない)


 その思いが、今、ようやく言葉になる。


 真柴はそっと顔を上げた。

 広場の中央に立つ瑛人が、誰かに向けて手を差し伸べている姿を見た。


 ──それは、もう一度信じたいと思える光景だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ