第34話
剣戟の音が広場に響き渡る中、瑛人と真柴は神殿前の石畳の上で対峙していた。
周囲の戦いが遠ざかっていくように感じられるほど、ふたりの間に張り詰めた空気が漂っていた。
真柴の剣は白銀に輝き、そこに宿る魔力が空気を震わせる。
振るわれる一撃一撃が、まるで抑えきれない怒りと嫉妬の結晶のようだった。
「……お前は、ずっと邪魔だった」
真柴が吐き捨てるように言い、剣を打ち下ろす。
瑛人はそれを紙一重で受け止める。
「教室でも、廊下でも、どこにいてもお前は人の中心にいた!
何もしなくても、みんなお前を見て笑っていた!
俺は……俺は、努力して、演じて、ようやく褒められてたのに……っ!」
剣の刃が石畳を削る。
怒りに任せたその一太刀に、瑛人はたじろぎながらも、目を逸らさなかった。
「……それが理由で、俺を……」
「陥れた。そうだよ!」
真柴の叫びが、広場の喧騒を割くように響いた。
「葵も……! あいつも、俺のものにしてやったんだ……お前のことが好きだったのに!
全部、全部壊してやろうと思った!」
かつての記憶が、瑛人の脳裏に鮮やかに蘇る。
葵に笑いかけた朝の風景。
塾帰りの夜、拒絶された言葉。
そして、真柴の冷たい視線。
だが、今──
その葵は瑛人の隣に立ち、フィーネは剣を握って後ろを守っている。
「……それでも、俺は、お前を憎んではいない」
その静かな言葉に、真柴の動きが一瞬止まる。
「ふざけるな……! ふざけるなぁああああああ!!!」
怒号とともに振り下ろされた剣──
だが、その剣は、瑛人の掌から溢れた黒い光に包まれ、止まった。
それは攻撃ではない。
癒しの力。
剣を砕くことなく、押し返すことなく、ただ優しく包む光。
「もう、終わりにしよう。お前も……傷ついてる」
瑛人の手が、真柴の胸元に触れていた。
その言葉に、真柴の剣がカランと音を立てて落ちた。
足元に崩れ落ちた彼は、拳を握り締め、顔を伏せる。
震える肩。
頬を伝う涙。
「俺は……何を、してたんだ……」
広場に、静寂が広がっていく。
憎しみは、もうそこにはなかった。
ただ、自分の心と向き合った少年の姿があった。




