第33話
王都の東、セラン神殿前広場──
その朝、空は鈍い灰色に曇り、冷たい風が神殿の石畳を吹き抜けていた。
大広場に集った人々は息をひそめ、まるでこの場に神の審判が下るのを待つような緊張が漂っていた。
教会の重厚な鐘の音が響き渡る。
神殿の大階段には、聖導教会の高司祭ギゼルが姿を現す。
金と白の法衣に身を包み、右手には神印の杖を持つ。
その隣に立つのは、白銀の鎧に身を包んだ“聖なる勇者”──真柴悠翔。
そして、群衆を分けるようにして進み出たのは、黒いマントに身を包んだ瑛人だった。
その背にはリデル王子、左右には葵とフィーネが寄り添っている。
「……やはり来たか、神崎」
真柴が目を細め、軽く笑う。
「俺の言った通りだ。お前はいつだって周りに人を集める。でも最後にはみんな離れていく。裏切られる。お前のその甘さが、結局誰も救えない」
瑛人は言葉を返さなかった。
ただ、真柴の目をまっすぐに見つめる。
その奥にある焦りと憎しみ、そして……痛みを。
ギゼルが杖を高く掲げ、威厳を持って宣言する。
「この者は神に仇なす異端者! 黒き光は呪いの象徴! 偽りの癒しで人々を惑わし、信仰を汚した大罪人である!」
するとその言葉に、群衆の中からかすかな声が上がった。
「違う……」
「違う! 彼は……私の子を救ってくれた!」
「俺もだ! 咳が止まらなかったのに、黒い光で呼吸ができるように……!」
「膝を怪我して歩けなかったのに、今では走れるんだ……!」
声は最初こそ小さかったが、やがて波紋のように広がっていく。
神殿広場に集った者たちの中に、確かに瑛人の癒しを受けた人々がいた。
瑛人の両脇に立つ葵とフィーネが、その手を握り返す。
リデルは一歩前へ出て、毅然とした口調で叫んだ。
「この男は、王国の民を癒してきた真の“癒し手”だ!
教会は偽りの癒しと薬で民を縛り、利益をむさぼってきた! 今こそその欺瞞を暴き、変革の火を灯す時だ!」
その瞬間、教会騎士団と王国軍の一部が剣を抜き、激しい衝突が始まった。
魔法が飛び交い、剣が交わり、広場は混沌の渦と化す。
瑛人は恐れず、前へと進んだ。
黒く光る手のひらから放たれる癒しの力が、味方の傷を瞬時に癒していく。
倒れた兵士の体を抱え、瑛人はそっと手をかざした。
その黒い光が、静かに、確かに命をつなぎ止める。
「癒しの……黒い光が……」
敵も味方も、その姿に目を見張った。
そしてついに、真柴が剣を構え、瑛人の前に立つ。
「お前のその目……昔から気に食わなかった」
「……お前の言葉じゃ、もう俺は止まらない」
剣が唸りを上げ、光が交錯する──
かつての友が、今、命を懸けた戦場で向かい合う。
決戦の刻は、始まった。




