第31話
王子リデルの案内のもと、瑛人たちは王都近郊の古代遺跡へ向かっていた。
「ここが……魂の神殿?」
瑛人が見上げたその場所は、霧に包まれ、外からの視線を拒むように静かに佇んでいた。
無数の蔦が石の門に絡みつき、だがその中心に浮かぶ紋章は淡く輝いていた。
「この神殿は、“癒し”の根源に繋がる場所と言われている。古くは精霊や神々と人が交信する場でもあったと」
リデルの言葉に、瑛人は無言で頷いた。
中に入ると、空気が一変する。
静謐で、澄み切った気配。
歩を進めるごとに、瑛人の胸の奥がざわついていく。
──癒しとは、何か。
ずっと追い求めてきた力。
だけど、それは恐れられ、拒絶されてきた。
神殿の中心に近づいた時だった。
淡い光に包まれた空間に、再びあの“声”が響いた。
「……エイト。今、君に問おう」
かつて夢で出会った神の声。
「癒しとは、何だと思う?」
瑛人は立ち尽くした。
問いはあまりに根源的で、だが避けて通れない。
「俺は……ただ、誰かに笑っていてほしくて、幸せでいてほしかっただけ」
すると、空間に無数の光が舞った。
それは黒にも似た深い青。
過去に癒した人々の顔が、次々に浮かび上がる。
涙を流した少女。
傷を庇いながら感謝した兵士。
目を見開き、息を整える老女。
そのすべてが、瑛人の手に触れ、そして笑顔になった者たちだった。
「君の癒しは、“優しさ”そのものから生まれた力だ」
「でも……俺の光は黒い。呪いみたいだって、みんな……」
「色に惑わされてはならない。
本質は、痛みを取り除こうとするその想いにある」
瑛人の手のひらが淡く光る。
だがそれは、これまでとは違う──澄んだ漆黒の輝き。
闇ではなく、深さ。
恐怖ではなく、静けさ。
その手に、フィーネがそっと触れる。
「……綺麗な光」
葵も隣に立ち、微笑んだ。
「これが、えいとの優しさの色なんだね」
そしてリデルが、静かに言った。
「君の癒しが、人の心を救う力だと証明してみせてくれ」




