表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/38

第3話

──数日が経った。


 猫耳の少女、フィーネと名乗った彼女は、俺を「厄災の王」と警戒しつつも、なぜか放っておけなかったらしい。

 「監視」と言い張りながら、一緒に村を目指してくれた。


 そして、俺たちは今、小さな村にいる。


 人々は素朴で、少し警戒しながらも、見知らぬ旅人を追い返すほどではなかった。


「……あんた、ほんと変な奴ね」


 木陰でフィーネが呟いた。


 俺は村の老人の荷物を手伝い、子どもたちと遊び、落ちた野菜を拾って農家に返していた。


「……普通のことだよ」

「普通じゃないわよ。あんた、変に笑ってるし」


 笑ってる、か。

 ……たしかに、そうかもしれない。

 笑っていれば、敵意は薄れる。

 昔から、それが唯一の「武器」だった。


 けれど、平穏な時間は、そう長くは続かなかった。


 夕暮れ時、村に悲鳴が響いた。


「誰か! 獣に襲われた子が……!」


 血を流して運び込まれたのは、小さな男の子だった。


「どいてください、俺に……できるかもしれない」


 俺はそう言って、少年に手を伸ばした。


「な、なにする気よ……!」


 フィーネが慌てて叫ぶ。


 でも俺は、それを振り切って手を添えた。


 黒い光が、少年の身体を包む。


 ゆっくりと──静かに。


 その瞬間、俺の中に“何か”が通った。

 けれど、それが何かは、まだわからなかった。


「う……うぅ……」

「息が……戻ってる?」

「傷も……あれ、治ってる……?」


 どよめきが広がる。

 でもすぐに、それは“ざわめき”に変わった。


「今の……黒い光……」

「厄災の王、黒い癒し……まさか呪い……?」

「子どもが……呪われる……!」


 ……また、これだ。


「俺、助けたのに……」


 俺の手が震える。

 少年の痛みは確かに消えた。だが、誰もそれを“癒し”とは呼ばない。


「行くわよ、神崎瑛人」


 フィーネが俺の腕を掴んで走り出した。


 夜の森を抜けながら、彼女がぽつりと呟く。


「……助けたくてやったんでしょ。あんた、ほんと……」


 続きはなかった。

 だけど、その背に、何かが宿っていた。


 俺の“癒し”は、黒く、異質で──

 まるで、呪いのようだった。


 本当にこれは、人を救っているのか?


 優しさが力になるなんて──それを、俺はまだ信じられなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ