第3話
──数日が経った。
猫耳の少女、フィーネと名乗った彼女は、俺を「厄災の王」と警戒しつつも、なぜか放っておけなかったらしい。
「監視」と言い張りながら、一緒に村を目指してくれた。
そして、俺たちは今、小さな村にいる。
人々は素朴で、少し警戒しながらも、見知らぬ旅人を追い返すほどではなかった。
「……あんた、ほんと変な奴ね」
木陰でフィーネが呟いた。
俺は村の老人の荷物を手伝い、子どもたちと遊び、落ちた野菜を拾って農家に返していた。
「……普通のことだよ」
「普通じゃないわよ。あんた、変に笑ってるし」
笑ってる、か。
……たしかに、そうかもしれない。
笑っていれば、敵意は薄れる。
昔から、それが唯一の「武器」だった。
けれど、平穏な時間は、そう長くは続かなかった。
夕暮れ時、村に悲鳴が響いた。
「誰か! 獣に襲われた子が……!」
血を流して運び込まれたのは、小さな男の子だった。
「どいてください、俺に……できるかもしれない」
俺はそう言って、少年に手を伸ばした。
「な、なにする気よ……!」
フィーネが慌てて叫ぶ。
でも俺は、それを振り切って手を添えた。
黒い光が、少年の身体を包む。
ゆっくりと──静かに。
その瞬間、俺の中に“何か”が通った。
けれど、それが何かは、まだわからなかった。
「う……うぅ……」
「息が……戻ってる?」
「傷も……あれ、治ってる……?」
どよめきが広がる。
でもすぐに、それは“ざわめき”に変わった。
「今の……黒い光……」
「厄災の王、黒い癒し……まさか呪い……?」
「子どもが……呪われる……!」
……また、これだ。
「俺、助けたのに……」
俺の手が震える。
少年の痛みは確かに消えた。だが、誰もそれを“癒し”とは呼ばない。
「行くわよ、神崎瑛人」
フィーネが俺の腕を掴んで走り出した。
夜の森を抜けながら、彼女がぽつりと呟く。
「……助けたくてやったんでしょ。あんた、ほんと……」
続きはなかった。
だけど、その背に、何かが宿っていた。
俺の“癒し”は、黒く、異質で──
まるで、呪いのようだった。
本当にこれは、人を救っているのか?
優しさが力になるなんて──それを、俺はまだ信じられなかった。