第29話
夜が明けた。
瑛人たちは森の中の小さな廃屋に身を潜めていた。
焚き火の火は弱くなり、まだ夜の寒さを残した空気が肌を刺す。
それでも、三人の中には確かな熱が残っていた。
葵は静かに湯を沸かし、フィーネは窓辺で周囲の様子を警戒していた。
瑛人はその中央で、まだ重く残る疲労を感じながら、ふたりの姿を見つめていた。
──その時だった。
カツン、カツン……馬蹄の音が、森の小道から近づいてくる。
瞬時に身構えるフィーネと葵。
瑛人も手近な枝を掴み、警戒する。
やがて、黒衣に身を包んだ男が馬から降り立ち、数人の護衛を引き連れて姿を現した。
「あなたは……」
瑛人が呟いた。
その顔は、見覚えのあるものだった。
──数週間前、村外れで倒れていた旅人。
深い傷を負っていた彼を、黒い光で癒した。
人々に恐れられていた自分の力を、それでも「ありがとう」と受け取ってくれた、あの男。
今、その旅人は立派な軍装に身を包み、堂々とした風格を纏っていた。
フィーネの耳がぴくりと動いた。
「……王族の香りがする」
男はゆっくりと兜を脱ぎ、深々と頭を下げた。
「王国第三王子──リデル・セランです。あの時の命の恩人に、今こそ礼を」
葵が息を呑む。
「王子……! でも、どうしてここに?」
リデルは微笑みながら言った。
「あの時、誰もが恐れたその黒い光に、私は救われた。
私の傷は一晩で癒えた。あの優しさがなければ、私はここにいなかった」
そして彼は目を細め、少しだけ寂しそうに言葉を続けた。
「だが、その後に聞いたのです。君が異端として追われていると。
正義と称し、金と信仰で全てを支配する教会が、真実を歪めていることも……」
リデルは腰を落とし、瑛人と同じ目線にまで身を屈めた。
「私は見てきました。癒され、希望を持った人々の顔を。
その力を恐れるのではなく、信じる国を作りたい」
その目はまっすぐだった。打算や計算の色はない。
瑛人は黙っていたが、その沈黙にはひとつの答えが浮かびつつあった。
「……俺は……誰かを癒したいと思ってた。
でも、それで何度も傷ついた。
それでも……まだ、信じたいんだ」
フィーネがその横顔をじっと見ていた。
葵がそっと手を重ねる。
リデルは頷いた。
「僕と一緒に戦ってくれませんか? 君の優しさが、この国の未来を変えると、私は信じている」




