第26章
救助から一夜明け、空はようやく晴れた。
泥だらけだった道は乾きはじめ、陽光が湿った木々を照らしていた。
だが、俺たちの前に現れたのは、信じられない現実だった。
教会の使者たちが、突如として現れたのだ。
白銀の法衣に身を包み、無表情のまま剣を携えた兵士たちを引き連れて。
「黒き異端よ。お前がこの災害を引き起こしたと、複数の証言がある」
最前に立つ高位聖職者が、そう言い放った。
「は……?」
俺は思わず、言葉を失った。
葵が一歩前に出ようとしたが、俺が手を上げて制した。
「何を根拠に……俺が救ったんだ。ここにいた人々は知ってるはずだ」
だが、兵士たちが囲む中、誰も声を上げなかった。
さっきまで感謝していたはずの人々が、沈黙の壁を作っていた。
「誰も……何も言わないのか?」
俺の声が震えた。
その時、フィーネが足を引きずりながら前に出た。
「彼は……私たちを救った……あの場にいた人なら皆、知っているはず……」
聖職者はフィーネを一瞥した。
「君は獣人族か。証言の価値はない」
「なっ……!」
怒りと悔しさが沸き上がった。
誰もが怯えている。
教会の権威が、恐怖を支配しているのだ。
そのときだった。
老婆が、ゆっくりと前に出た。
「あの子は、助けてくれた……私の命も、孫の命も……どうか……」
その声に続くように、ぽつりぽつりと、数人が口を開き始めた。
「俺の娘も……助けられた……」
「本当は、知ってる……でも、怖かったんだ……」
涙ぐみながら、それでも真実を告げようとする人々の姿。
その中に、葵も、フィーネも並んでいた。
「えいとくんは……あたしの目の前で、何人もの命を救った」
「それを……罪にするなんて、間違ってる!」
人々の声が、次第にひとつになる。
だが、そのとき──
聖職者が、手を振り上げた。
「ならば、その全てを背負わせるとしよう。異端者は、即刻拘束し──教会の裁きにかける」
兵士たちが動き出した。
剣が抜かれ、空気が張り詰める。
俺は覚悟を決めた。
もう、逃げはしない。
信じてくれる人がいる限り、この手を汚してでも、守ってみせる。
俺は抵抗を試みたが、多勢に無勢だった。
腕を背後で拘束され、無理やり地面に膝をつかされる。
葵が叫んだ。「やめて! 彼は人を救ったのに!」
フィーネも必死で立ち上がろうとしたが、兵士に押さえつけられる。
人々の叫びと泣き声が混じる中、聖職者は無情に命じた。
「異端者は連行する。教会の裁きの場で処刑される運命にある」
俺の目の前が暗くなった。
これが、癒しの代償なのか?
信じる優しさが、こんな結末を招くのか?
連行されながら、俺は強く唇を噛んだ。
まだ、終わっていない──




