第18章
──その日、小さな村に黒い光が差した。
「見たか? あの男だ……!」
「黒い癒し……あれが、噂の異端者……」
村の広場で、ざわめきが走る。
高熱で倒れた子どもを抱える母親。
その前で、異様な黒い光を発した少年が、子どもの額に手をかざしていた。
「治ってる……? あの光で……?」
最初に声を上げたのは、母親だった。
目の前のわが子がすうすうと寝息を立てている。
しかし、その安心と驚きが、村人たちの間に広がることはなかった。
「黒い癒しなんてありえない……」
「教会は“白こそ神の祝福”と言ってるぞ!」
誰かがそう叫んだ。
そして、恐れが怒りに変わるのに、時間はかからなかった。
「異端者をここに置いてはいけない!」
「呪われるぞ!」
混乱の渦のなか、母親は子を抱えて後ずさり、震えながら呟いた。
「……出て行って……お願い……もう来ないで……」
少年は黙ってその場を離れた。
──
雨の夜、森の奥で焚き火がひとつ揺れていた。
瑛人は火のそばに座り、ぬれた上着を乾かすでもなく、ただ両手を見つめていた。
掌にかすかに残る黒い残光。
その光に問いかけるように、彼は一枚の紙に筆を走らせる。
『誰が決めたんだろう。
何色なら正しくて、何色なら罪なのか。
癒すことが、怖がられることなのか。
優しさは、もう必要ないのか?』
彼は手紙を封もしないまま、火の中にくべた。
炎が紙を舐め、文字を焼き尽くす。
その様子をただ見ていた。
──
遠く離れた城都の高台。
フィーネは塔の窓から風に吹かれながら、村の騒動の報せを聞いていた。
「また、癒したんだ……」
その表情には、複雑な葛藤が浮かんでいた。
「彼のやさしさは、ほんとに……」
「……余計な情は捨てるべきだよ、フィーネ」
背後から現れた真柴が、穏やかな声で言った。
フィーネは何も返さず、ただ風を見つめ続けた。
夜は、どこまでも深かった。




