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優しすぎる少年は“黒い癒し”で世界を救う 〜追放され、裏切られ、それでも優しさを貫いたら最強になってた〜  作者: 風谷 華


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第16話

 王都ルミナリアの門をくぐったとき、空はまだ薄明るく、朝靄が街を包んでいた。


 俺はひとりだった。

 フィーネはいない。誰も、いない。


 真柴の言葉が、人々の噂が、背中を追ってくるようで、何度も振り返りたくなるのを必死で堪えた。


 ただ、歩いた。


 地図も目的地もなく、獣道を進み、川辺を渡り、木々の間を抜けて、夜には野営する。


 風の音と、自分の足音だけが聞こえる。

 それ以外は、すべて無音だった。


 心の中も、空っぽだった。


 あの時、あの広場で、何かが確かに壊れた。


 フィーネの沈黙。真柴の嘲笑。

 裏切りという言葉を使いたくはなかった。

 でも、それ以外に表現できる言葉が見つからなかった。


 信じたかった。

 信じていた。


 その信頼の終わりが、あまりにも静かで、だからこそ余計に残酷だった。


 それでも、数日が過ぎた。


 気がつけば、黒い光は、今も掌の奥に眠っていた。


 まるで、俺の感情に呼応するように、必要な時にだけ姿を見せる。

 それが癒しであると信じたくても、あの広場での冷たい視線が脳裏をよぎるたび、心は怯えた。


 そして、ある夕暮れのことだった。


 山道の途中で、小さな荷車が道を塞いでいた。

 その傍らに、老夫婦がうずくまっていた。


「だ、大丈夫ですか?」


 思わず声をかけた。

 老婆がこちらを見上げ、涙を浮かべて言う。


「夫が……足を、崖から落ちて……」


 男の足は、膝から下がひどく腫れ、出血もしていた。

 骨が折れているのは明らかだった。


 俺は一瞬、目を閉じた。


 癒せば、黒い光が出る。

 また、怯えられるかもしれない。

 逃げられるかもしれない。


 でも、放っておけるはずがなかった。


 しゃがみ込み、そっと男の足に手をかざす。


 黒い光が、ゆっくりと掌からあふれ出した。

 闇のようで、けれどどこか温かいその光が、傷に触れる。


 老夫婦は息を呑み、動きを止めた。

 だが、逃げなかった。


 次の瞬間、男の顔が苦悶から安堵へと変わり、

 腫れが引き、血が止まり、足が元に戻っていくのを、彼らは目を見開いて見つめていた。


「……痛く、ない……? 本当に……治ったのか……?」


 老婆が、そっと頭を下げる。


「あなたが……噂の癒し手かもしれませんね。でも、ありがとう……本当に、ありがとう」


 俺は何も言えなかった。

 声が出なかった。


 礼を言われるたび、胸が痛んだ。

 そんな存在じゃない。

 こんな黒い光で癒しても、きっとまた誰かに否定される。


 なのに。


 また、癒してしまった。


 信じることをやめたはずだったのに。


 なのに──目の前の痛みに、俺は手を伸ばしてしまう。


 それが、弱さなのか。

 それとも、希望なのか。


 答えは、まだ、わからなかった。

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