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優しすぎる少年は“黒い癒し”で世界を救う 〜追放され、裏切られ、それでも優しさを貫いたら最強になってた〜  作者: 風谷 華


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第11話

 グラニードに滞在して三日目。

 街の裏通り、貧民区と呼ばれる場所で、俺は小さな少年と出会った。


 彼の名はルカ。

 まだ八歳くらいの小さな子で、右足をひきずっていた。


「どうしたの、それ」


 声をかけると、彼は一瞬怯えた表情を浮かべたが、俺の顔を見て、少しだけ緊張を解いた。


「……昨日、荷車に足をひかれて……。でも、薬も買えないし、医者にも行けない」


 俺は膝をつき、そっと手を伸ばした。


「少し、我慢して。すぐ楽になるから」


 ルカは黙って頷いた。


 黒い光が、俺の掌からにじみ出る。

 ルカの足に触れた瞬間、びくりと体が跳ねた。

 だが、すぐに顔が安らぎに変わる。


「……あったかい」


 治療が終わると、彼は何度も足を曲げ伸ばしし、驚いたように俺を見上げた。


「本当に、痛くない……!」


 その瞬間、誰かがその場に走り寄ってきた。

 母親らしき女性が、涙を浮かべてルカを抱きしめる。


「ありがとうございます……! あの子、ずっと泣いていたんです」


 その後も、噂を聞きつけて、人が集まり始めた。

 咳が止まらない少女、熱にうなされていた老人、古傷が化膿した青年。


 俺は次々と黒い光を注ぎ込んだ。

 そのたびに、人々の表情が変わる。

 痛みが和らぎ、涙が溢れ、言葉にならない感謝が押し寄せる。


「すごい……」

 「奇跡だ……」

 「黒いのに、優しい……」


 誰かが、そっとそう呟いた。


 そのときだった。


「今の……黒い光を見たぞ!」


 怒鳴り声が響く。

 通りの向こうから、教会の法衣を着た男が数人、こちらに向かってきていた。


「異端の癒しだ! すぐに確保しろ!」


 俺は人々の前に立ちふさがった。


「この人たちは、癒されたんだ。何も悪いことなんかしていない!」


「黙れ! 癒しは神の御業だ。それを模倣するお前の行いは、神への冒涜だ!」


 そのとき、ルカの母親が俺の背にすがるように叫んだ。


「この人は、私たちを助けてくれたんです! 呪いなんかじゃありません!」


 その声は、周囲の人々にも届いた。

 野菜を売っていた老婆、汚れた服を着た青年、路地裏の家族たち、癒された全員が声を上げる。


「俺の娘も癒された!」


「熱で死にかけた父が、今は笑ってる!」


「神が許さなくても、俺たちは知ってる!」


「黒くても……この人の手は、温かかった……!」


 教会の者たちは、顔をしかめ、剣に手をかけた。


「……退け」


 通りの奥から、鋭い声が響いた。


 姿を見せたのは、白銀の鎧を纏った男。

 その瞳が、まっすぐに俺を射抜いた。


「命令は取り消す。ここで争えば、民の怒りは抑えられん」


 男が背を向けると、教会の者たちも不服そうにしながら、後に続いた。


 静寂が訪れる。


 フィーネが、ずっと黙って俺を見つめていた。


「……怖くなかったの?」


「怖かったさ。でも……皆の顔が変わっていくのを見たら、もうそれだけでよかった」


 フィーネは目を伏せて、少し笑った。


「……強いね、あんた」


 優しさは、ただの感情じゃない。

 誰かの痛みに寄り添うことは、時に戦うことと同じくらいの勇気が要る。


 このとき初めて、俺は“癒し”の本当の強さに触れた気がした。


 だが、穏やかな時は長くは続かなかった。


 その夜、宿に戻ると、宿の主人が怯えたようにこちらを見て言った。


「……すまん、旦那。あんたらにもうここにいてもらうわけにはいかねぇ。上からの命令でな……」


 “上”──つまり、教会。


 確かに、誰かを助けるたびに感謝の声は届く。

 でも同時に、それ以上の力で、静かに、しかし確実に俺たちを排除しようとする存在があった。


 俺の癒しが“呪い”と呼ばれる限り──まだ、本当の意味で信じてもらうには遠いのかもしれない。


 それでも、俺は進む。

 この優しさが、誰かを救えると信じて。

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