第1話
中学の頃から、俺は「優しすぎる」と言われていた。
誰かが落とした消しゴムを拾ったり、遅刻しそうな後輩の荷物を持って走ったり。
そんなふうに、ただ“困ってる人がいたら助ける”ことが、自然だった。
──ただ、俺は、少し浮いていた。
たぶん見た目のせいだ。
整ってるって、よく言われる。
けど、それが逆に近寄りがたいって言われたり、勝手に“完璧”って期待されて。
そのくせ、誰にでも優しくするから、
「裏があるんじゃないか?」
「モテるのわかっててやってるでしょ?」
そんな陰口が、いつの間にか広がっていった。
──それでも、優しさを捨てることができなかった。
そんな俺にも、高校では初めて「楽しい」と思える日々があった。
隣の席の月城葵。
勉強はできるし、冷静だけど、時々見せる笑顔が優しくて──俺は、気づいたら彼女に惹かれていた。
それは、彼女も同じだと思っていた。
ある日、ふたりで話していた時。
「私、神崎くんのそういうとこ、いいと思うよ」
と照れたように笑ってくれた。
まるで春が来たみたいだった。
けれど、季節はすぐに冬へと変わった。
翌日から、葵は俺を避けるようになった。
目も合わせない、話しかけても無視される。
そして、いつの間にか──
真柴悠翔、俺の唯一の親友が、葵の隣にいた。
「……付き合ってるんだよ、俺たち」
告げられたその瞬間、心臓がひとつ、止まったような気がした。
教室の空気も、変わった。
男友達は、俺を避けるようになり。
女子たちは、「ああ、あの完璧気取りの……」なんて囁いた。
俺は、ただ笑っているしかなかった。
何もしていない。
でも、それが一番“気に入らない”らしかった。
そして、その日。
夜、塾からの帰り道。
ふらふらと歩く足取り。
街灯が滲む。
「……ああ、もう……いいや……」
光が、近づいてきた。
ヘッドライト。
逃げようとも思わなかった。
というより、考えることをやめていた。
──その瞬間、世界が真っ白になった。
目を開けると、そこは空虚な白の空間。
「……神崎瑛人」
声がした。
「君に、“癒し”の力を託す」
それが、すべての始まりだった。