第十一章 もう一度、同じ空(NU0626)
石垣空港の到着ロビーから、出発ロビーへと向かう。わずか数十分の折り返し。空港の構造すら、もう頭に焼きついていた。
「NU0626便那覇行き」
電光掲示板に映る文字。たった数時間前に見た光景の、再上映。
手荷物検査を済ませ、搭乗口前のベンチに腰を下ろす。何もすることがない。いや、する気力ももう残っていなかった。スマホのバッテリーは30%を切っていたが、充電しようという発想さえ浮かばない。まるで、すべての選択を投げ出しているような感覚。
搭乗開始。昨日と同じような空、同じような風、同じような機体。NU0626──9本目のフライト。窓側の席に座り、リュックを足元に押し込む。その動作さえ、機械のように無感情だった。隣の席の乗客が軽く会釈してきた。あやも、それに微かに頷いた。プロペラが回り始める。音と振動に包まれる中、シートに深く身を沈めた。
あと一本。それだけを心の中で繰り返す。風景も音も、もう情報ではなく、ノイズだった。
離陸後、CAがさんぴん茶を配って回る。あやは、無言で受け取った。お礼の言葉すら、声に出す余力がなかった。
窓の外には雲。その白さだけが、すべての感情を塗りつぶしていくようだった。時計を見ると、もうすぐ16時。この修行が始まって、何時間経っただろう?時間の感覚はとうに失われ、フライトナンバーと目的地だけが頭の中に残っている。
那覇空港に降り立つ。到着ロビーの空気が、思ったより冷たく感じた。次が最後──JL0922、羽田行き。あやは、機内から降りる足取りを少しだけ速めた。早く終わらせたい。それが、今の自分に残った、唯一の願いだった。