十年後 変わらない気持ち クーカス伯爵編
少し長いですが切るのもなぁと思い、そのまま投稿しました!
「ルーお義兄さま、エル義姉さま、デビットが!」
弟の婿入り先で義妹のシェリーさんが飛び込んで来たのは昨日の事だった。
領地の孤児院に慰問に行っている時に、甥のデビットが誘拐されたと聞いた時はタチの悪い冗談だと思った。が、シェリーさんの様子から見て本当だと分かりエルにシェリーさんを任せカイに連絡を取った。
(本当だ、ただ相手は分かっているが兄さんと同じ伯爵家なんだ。助けてくれないか!)
この国ではまだ爵位の優劣があり、ハイル家である子爵家が伯爵家に楯突く事が難しい。
話を聞けばルッツ伯爵家と知り、同じ伯爵家でも我がクーカス家の方が立場は上。
可愛い弟の頼みなら喜んで協力するよ。でも、この件・・根が深そうな気がするな。
「ルー、しばらくシェリーちゃんをこちらの屋敷で預かっても良いかしら?」
「それは構わないけど、カイには知らせたのかい?」
いくら兄弟でも勝手な事は出来ない。
ましてシェリーさんはあのデル商会会長の愛娘で、カイの愛妻だ。
「もちろんメグさんから連絡がいっているわ。キャロルちゃんもジャックと遊んでるからその方が良いかと思って・・」
それは良い案だね!そう言いながら我が君を抱きしめる。
「シェリーちゃん、身重なのに心労で倒れそうだわ。可哀想に・・ねぇルー?私にもお手伝いさせてくださる?」
「もちろんだよエル。君にしか出来ないことをお願いしようと思っていたんだ。頼めるかい?」
エルは もちろんよ! と答えた。
相手も喧嘩を売る相手を間違えたな!
今ではハイル子爵家は王室以上の資産があるというのに・・
「貴族には貴族のやり方で、相手に教えないとね」
「ええ、いざとなれば兄のフォッド侯爵もゲルダード侯爵シシィ様もおりますわ」
爵位で物をいう奴らには爵位で叩く。
「シェリーさんには気付かれないよう話を進めようか?我が君」
「ええ旦那様」
俺は急いで王宮へと向かうとジェネヴェクト殿下へ報告をした。
ジェネヴェクト殿下も頭を抱えてしまい、ファンレット殿下エバン殿下も呼び寄せた。
「「殿下、お呼びと聞きましたが・・」」
王太子殿下の側に控えている私を見てファンレット殿下は何かを察したようだ。
「ファンレットすまない、奥方の様子はどうだい?」
ファンレット殿下は七年前に結婚し、今は近衛隊総司令官として殿下に仕えている。
エバン殿下はこの度属国の姫と婚約し、来年にも入婿として渡られる事が決まった。
「お陰様で体調も良くなって、最近では子供たちと散歩が出来るまで回復しております」
これもデル商会からの薬のおかげです。と、頭を下げられた。
「ファンレット殿下にそう言われて、カイディアンも喜びます」
しばし沈黙が落ちたあと
「さて二人を呼んだのも今巷で起きている問題の件だ。ベルージャ話を」
「はい」
殿下に促され話始めた。
「お茶会・・ですか?」
「ええ、断ろうと思っていたけれど参加する事に決めたの。シェリーちゃんも息抜きに一緒に行きましょう」
「・・・」
シェリーちゃんからすればお茶会になんて参加している場合ではない事は上々承知の上で提案した。
もちろん無理強いはしない。
「主催者はルッツ伯爵夫人」
「?ルッツ伯爵夫人・・ですか?」
「ええ、聞いた事は?」
「あります・・その、ルッツ夫人は確かお子様に・・」
そう、ルッツ夫人は子供に恵まれない事で夫の伯爵とよく揉めている。
夫人は夫を疑ったがつい最近、伯爵の子と名乗る息子が現れた。皮肉にも誰が見ても伯爵の子だと思える容姿をしており、その事で子が出来ないのは夫人の方だと証明されてしまったと社交界で噂になった。
「その夫人が養子となった子を紹介したと・・」
「でも私は・・」
「噂では現れた子は五歳と・・。なのにお見かけした子は三歳程だったと・・」
「!・・三歳・・」
私が掴んでいた情報はそれだった。
五歳ほどの子がどうして見かけ三歳なのか?
「ですが、伯爵にそっくりなんですよね?」
「雰囲気などは髪型やメイクで何とでもなりますわ。自分の目で見てみたいと思わない?もちろん貴女は大事な時ですからムリは禁物ですわよ?」
そうして私たちはルッツ伯爵家へと向かう事にした。
お茶会当日、シェリーちゃんは疲労からお腹の張りがひどく、医師より安静と言われてしまった。
カイは直ぐにでもハイル邸へと言ってきたが、メグさんが一喝。
「ここは幼馴染として言わせてもらうわ!今は動かせない!いい?こちらなら直ぐにお医者様に診てもらえるわ!カイも私もずっとシェリーに付いてはいられないでしょ!だったらこちらでお世話になった方がキャロル様もシシィも安心だわ!」
「う〜・・・」
こうして我がクーカス邸で安静となった。
次の日ルッツ伯爵家へ出向くとその日はガーデンパーティーだった。
案内された席は夫人とは別の席だったが、話し声は聞こえる距離だった。
話題は養子となった子の話で盛り上がっていた。
終始ご機嫌の夫人に私と同じ席となった夫人方は不可解な顔をしていた。
「サブリナ様、いかがされました?」
「いえ・・、こんな事言うのは失礼だと思うのですが・・」
と、言葉を濁しながら話し始めた。
「あんなに嫌がっていた養子を、今は嬉しそうに話されていますでしょ?しかも五歳くらいと聞いていたのに、この間チラッと見た時は三歳くらいでしたの・・おかしいでしょ?」
「それは私も思いましたわ!自分の子にこだわっていた方が手のひらを返すように・・」
何かが引っ掛かるわね。その辺りはクーカス家の者とデル商会の影が探っているでしょうから任せましょう。私はただ噂を確認するだけ・・
私は席を立つとルッツ伯爵夫人の元へ向かった。
「本日はお招きいただきありがとうございます、ルッツ伯爵夫人」
「あらっクーカス伯爵夫人。確か・・欠席と伺っておりましたが?」
「ええ、実は夫人にお聞きしたい事がございまして。少しお時間いただけませんか?」
席を立つ前、侍女のメグさんが耳打ちをしてきた。
(孤児院にいた子供たちは離れの小屋に閉じ込められておりました)
おそらく今頃は影の者たちに救出されただろう。
私はその言葉を聞き席を立った。
彼女は侍女としても護衛としても全てにおいて優秀だ。義弟のカイもそうだけどシェリーちゃんは本当に愛されているんだなぁと感じる。
まぁ、私もその一人なんだけど・・
庭の一画にある東屋へと案内された私は、夫人と向かい合うように腰を下ろした。
「それでクーカス夫人、わたくしに話とは?」
優雅にカップを口元へと運ぶ夫人に私は先ほど聞いた話を持ち出した。
夫人は嬉しそうに微笑み、ぜひ機会があればご子息とも会わせたいわ!と言ってくる。
もし、その息子がデビットくんならばジャックとは従兄弟になる。
もしかしたら夫人はその子がハイル家の子と
知らないのかも・・
「私も今でこそ息子に恵まれましたが、それまでは・・本当に悩みましたわ。今日の夫人の顔を見ればご子息を大切にされていると伝わりこちらまで嬉しく感じました。ぜひ一度お目にかかりたいですわ!」
何とか今日、会わせてもらえないか?と頼むが、体調を崩したと言って断られた。
それならば・・と用意したプレゼントの小さなぬいぐるみを渡す。可愛いネコのぬいぐるみ。
夫人は受け取ると後ろの侍女に手渡す。
デビットくんならばこのネコを見れば反応するはず。
なぜならそのネコはデビットくんが孤児院で拾った子猫を、姉のキャロルちゃんが見ながら作ったぬいぐるみだからだ。
ルッツ伯爵家を後にしようと馬車乗り場へと向かうと、奥の方から小さな子の泣き声が聞こえてきた。
私は後ろに控えていたメグさんに目配せをし、その場で待つ。
奥の方が騒がしくなる。
護衛やメイドたちも走って行く。
私も頃合いをみて騒ぎの方へと足を向けると、メグさんともう一人の侍女が小さな子を抱えて走って来た。
奥からはルッツ家の侍女と護衛も・・
「オバちゃま!!」
メグさんに抱かれた小さな子が、私を見て声を上げる。私は無意識に両手を差し出しメグさんから子供を受け取る。
「デビットくん!!良かった・・」
泣きじゃくる子の腕には、先ほど手渡したネコのぬいぐるみがしっかりと抱かれていた。
「クーカス夫人・・その子を・・渡して。その子は我がルッツ家の」「この子は!クーカス伯爵家の縁のある子です!」
ルッツ夫人の声を遮る。
「こうして私に抱かれている事が、何よりの証拠では?」
デビットくんは安心したのか、私の腕の中で眠ってしまった。少し、痩せたかしら・・かわいそうに。
「それと、離れの小屋にいた子供たちも・・」
夫人は両肩を震わせている。
「すでにこちらの手におります。これが、どういう意味かわかりますよね?」
「わたくしは知りません!夫が勝手に!」
「そうそう、こちらの本当のご子息も・・無事ですわ。なぜか小屋の中に閉じ込められておりましたが・・」
「!!」
「この件は夫に報告します。弁解は聞きません、貴女は絶対にやってはいけない事をしたのだから」
「・・・」
「・・失礼・・」
私は言い終わるとデビットくんをメグさんに渡し、馬車乗り場へと向かった。
この件は今頃ルーとカイの耳に入ったでしょう。
私は腕の中のデビットくんと、一緒に囚われた侍女とメグさんでクーカス邸へと急いで帰った。
「そう・・それは良かった。さすがエルだね、帰ったらご褒美をあげなきゃ」
クーカス家の護衛からエルがデビットと侍女を救い出したと報告をもらった。
証拠となる子供たちと、ルッツ伯爵の庶子も一緒に。
「さぁ、今度は僕の番だね。彼には貴族として罰を受けてもらわないといけないね」
こうして王太子殿下の名の下、ルッツ伯爵を王宮へ呼び出した。
「王太子殿下にご挨拶を・・」
「堅苦しい挨拶は要らないよ。今日は伯爵に聞きたい事があって来ていただいた。どうぞ」
殿下はそう言うとルッツ伯爵をソファーへとすすめた。
ルッツ伯爵は恐る恐ると腰を下ろす。それはそうだろう、殿下の後ろには俺が立っていたのだから・・
「実は不思議な事に、君の屋敷にハイル子爵のご子息がいたそうだ」
「えっ?そんな・・」
ルッツ伯爵は知らなかったのか、驚いた顔をしている。
「ハイル子爵の夫で、私の弟であるカイディアンからある日、孤児院へ夫人と一緒に行った三歳の息子が何者かに侍女と共に攫われたと」
「それは!・・災難でしたね」
話を続ける。
「ええ、夫人はショックで身重の身体で探し回ってね、見ていて居た堪れなくなりましたよ」
「殿下!どうしてこの場に私が呼ばれたのか、理由を伺っても?」
ルッツ伯爵は話題を変えようと殿下へ話し掛けるが、その事が逆に殿下の気分を害したようだ。
「今クーカス伯爵が話している事が理由なのだが?」
「私の言い方が遠回し過ぎたようですね。殿下すみません。ルッツ伯爵、貴方の屋敷から行方不明になっていた甥がいた!そう言えばお分かりになりますか?」
ルッツ伯爵の顔が青くなる。汗も吹き出しハンカチで拭っても追いつかない。
「それから、貴方の屋敷の離れた小屋からなぜが子供たちも閉じ込められており、貴方のご子息もいたと報告を受けていますが・・ご存知か?」
さすがの伯爵も顔を上げ私を見る。
「夫人は・・貴方の子を閉じ込め、代わりに私の甥を養子に迎えたと言っていたそうです」
「そ・・そんな・・」
「貴方のした事は全て把握しています。貴方は孤児院から子供たちを探りウォーエン商会と手を組み誘拐し、他国へ人身売買をしていた!その中でも高く売れそうな子を手元へ置き別ルートで売買していた!
すでに調べはついています!
そしてこの件はすでに王にも報告済み。そして王太子殿下へこの件は任せると・・」
私は頭を下げると殿下は立ち上がる。
「ルッツ伯爵、いやデイビス!今日この時をもって爵位を剥奪!詳しく話を聞かせてもらうぞ!入れ!」
殿下の声を合図に外で控えていた騎士たちが入って来て、デイビスを捕らえた。
「俺はただ借金を返したかっただけ・・まさか妻までが・・まさかハイル子爵の息子とは・・」
独り言を呟きながら騎士に連行される姿は、寂しいものがあった・・
「今回は奥方に感謝だな、ベルージャ」
報告書を書き上げ殿下へ提出すると、不意に言われた。私は微笑むと
「殿下の婚約者候補に入るだけありますから・・」
とだけ答えた。
カイ、こちらは片付けたよ!
私は誰もいないだろう場所で、独り言を言う。
その瞬間 ザザザッッ!と木々が揺れた。
これで報告も済んだな。
私は急いで馬車乗り場へと向かう。
久しぶりに明るい屋敷へと・・
ただ久しぶりのクーカス夫妻。
楽しんでいただけたでしょうか?
次は商会編です!




