サルーン国 最終話
「シェリー、忘れ物は無いか?」
「ええ、大丈夫よ。それにしてもまさか、お父様専用船を出してもらえるなんて。」
この船は数ある中でも特別なのだ。
そして今日、とうとう国へ帰る日になった。
こちらの国へ来て約二ヶ月。国を出て二ヶ月半。
心なしかメグのお腹も少し膨らんでいる。
あんなにお父様優先主義のハリソンが、妊娠発覚後はメグにベッタリで 仕事しなさい! と怒られている。まぁ、お父様が許してくれてるからだけどね。
「シェリー、どうかしたのかい?カイは何処へ行ったんだい?」」
声の主はお父様。
わたしは振り返りもせずカイのいる方を指差す。
お父様も指先を見ると仕方ないと諦めた。
「それにしても良くこの船を出す気になりましたね。お母様との思い出の船なのに・・」
お父様は私を見る。そしてカイの方に顔を向く。
「王族の方を乗せるのに、普段の船は失礼だろ?それに、伯爵様と子爵様が二人も乗るんだ!相応しいのはこの船しか無いと思ってね。」
「そうね・・。でも、母様の部屋は」
「シェリーの部屋にしたよ。」
「えっ?」
お父様に聞き返す。だってあの部屋は・・
「お母様もきっとそうしてた。シェリー、この船はハイル子爵家の物だから君の物なんだよ。」
「・・・」
「お母様の物は、屋敷へ運んだから心配しないで。これからはサルーン国にも頻繁に来る事になるだろ?だったら余計この船が必要になる!シェリーとカイに使ってもらいたい。」
両頬に冷たいものが流れているのがわかるのに、それを止める術がわからない。あんなに大切にしていたお母様との思い出が詰まったこの船を、わたしの為に手放したの?
「シェリー、どうした?お義父さんが呼びにきて・・泣いているの?」
わたしが泣いている事に気付いたカイは、泣き顔を隠すように優しく抱きしめてくれたながらオデコにキスをした。
「お義父さん、今回の旅でこの船をシェリーに譲るつもりだったらしい。一年前から手を加えてたんだ。」
「カイ、知ってたの?」
優しく背中をさすると お義父さんに口止めされてたんだ。 と耳元で囁くように答えてくれた。
「自分にはお義母さんとの思い出が沢山あるから、これからは俺たちが作りなさいって。」
「そっか・・でも、この船に母様の物が無いのは寂しいな。」
「・・俺がいるのに?」
顔を上げられると、真っ直ぐわたしを見るカイの目と視線がぶつかる。
何故だか胸がドキドキしてしまい、カイと目が合わせられなくなった。
「シェリー?俺だけでは役不足なのか?」
「そそそ、そんな事ありません!」
カイの色気に毒されて、思わず言葉を噛んでしまった。そんなわたしを見て喜ぶカイ。
チュッ!
突然口づけをされ、更にわたしの顔が赤くなってしまった。
「ギル!」
昨日、悲しくなるから見送りには行かないと言っていた彼女が、駆けつけてくれた。
「キャシー、どうした?何か忘れ物?」
「ええ、大切な物を渡し忘れたの。」
そう言って取り出したのは例のペンダントだった。
「これは君にとってとても大切な物じゃ!」
キャシーは背伸びしながら俺の首に着けようとしている。自然とキャシーの腰に手を当てて頭を下げる。
「大切な物だからこそギルに持ってて欲しいの。私はほら、指輪を頂きましたから。」
見せてくれたのは左手の薬指にはまった婚約指輪。
「お待ちしております。必ず迎えに来てね。」
「もちろん!屋敷を整えたら直ぐ来るから。それまでに一人で準備させてしまうけど・・」
「大丈夫よ。王妃陛下もマリエンヌ妃殿下も手伝ってくださるから。」
涙を堪える顔がたまらなく、思わずキャシーの唇を奪ってしまった。
キャシーも驚いた顔をしたけど、直ぐに笑顔になると自然と二人の顔が近づいた。
船が出航し残りあと数日でオブランス国へ到着する、ある日の夜。
カイが一人涼んでいると、ギルが近づいて来た。
暫く沈黙が続いたが、先に声を出したのはギルだった。
「カイ兄はこれからどうする?」
「俺はこのままシェリーを支えて、社交も商会も盛り立てていくつもりだよ。」
「でも、カイ兄はまだ鍛えているんだよな?何の為に?姉さんだけの為じゃないよな?」
カイは暫く真っ暗な海を眺めると、静かに話出す。
「この話は絶対女性には言うな!シェリーの耳に入れたく無いんだ。彼女を守る為にも・・ギル、約束出来るか?」
その後カイの話を聞いたギルもまた、カイと同じ道を進みデル商会へ入った。
愛する人を守る為に、家族にも知られず裏の世界を牛耳る話は・・また別の話。
何とか最後まで書く事が出来ました。
途中でシェリー達が勝手に動いてしまい、私の方が追い付かない事もありましたが、何とか追いつく事が出来てホッとしております。
最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました。




