サルーン国 27
「さて、外はすぐに片が付くだろう。カイは娘とそちらのお嬢さんを連れて出るんだ。残党は君に任せる。俺はこちらを片付けてから向かうよ。」
有無を言わさない口調で言われたら従うしか無い。
俺は義父に頭を下げ、シェリーを抱き上げたままキャシーさんを連れ出した。
(お義父さんは俺にシェリーを任せてくれたんだな。本当なら自分が医者に連れて行きたかっただろうに。)
「あの、彼の方は・・」
後ろから付いて来たキャシーが問う。
彼女の後ろにもデル商会の護衛が二人付いている。
正直この二人に勝てた試しがない・・程の爛れだ。
「ジャック・デル。シェリーの父です。・・名前くらいなら聞いた事ありませんか?」
キャシーは黙って顔を縦に振る。
(やはり義父はこちらでもその名を轟かせていたんだな。俺に義父の跡が務まるのだろうか・・)
紹介はそれだけで充分だった。
そのまま足を進め、もう少しで外という所で騎士が現れた。見覚えのあるその男は先程、シェリーを拘束していた男だった。
俺はシェリーを見た。
おそらく身体中に痣があるだろう。そしてその痣を作った男が目の前にいる。
「すみません、シェリーとキャシーさんをお願いします。」
俺は気を失ったシェリーを商会の護衛に託すと、騎士を睨みつけた。
腹の底からの怒りで気が狂いそうだ。
だが一歩間違えればシェリーに傷が付く。
呼吸を整え怒りを抑える。
そして、騎士に向かって剣を突き出すと全速力で駆け出した!
騎士時代を思い出せ。
相手に隙を与えるな!
足!腕!身体!次々と剣を相手に切り付ける。
急所を狙え!無理なら相手の動きを止められる場所!
騎士を辞めた日から毎日、ハリソンさんや護衛の人達に教わった。
自分を守るため、愛する人を守るための護身術を今最大限に発揮する!!
「カイさま、お見事です!!」
護衛の二人に褒められた俺は、目の前で倒れている騎士を見下げながらトドメを刺した。
ギンギンッと剣がぶつかる音がする。
ギルとベンの腕は互角なのだろう。
窓から顔をずらし、今床の上で虫の息である公爵へ問いかける。
「君が本当に守りたかったものは何だったんだ?」
右胸に剣を突き立てられ、肩で呼吸する公爵はジャックを見た。
「わたしは、この国の行末が・・」
「違うな!違う。君はこの国の事なんて何にも思ってはいない。」
ジャックはハイゼンの側に顔を近づける。
ハイゼンは何も答えられずジャックの顔を見る。
「君が欲しかったのは誰にも傅かない権力だ。君の父親がそうだったように。」
「なぜ・・父のことを・・」
ジャックはフッと笑うと、
「君の父親が何のために建国の血を持つ女性と結婚したと思う?考えは親子似るんだよ。」
「だが、父は母の事を大切に!」
「ああ、君の母上も君しか産まなかったんだったね。ここ数年、王族からは何故か男子しか産まれてきていないんだ。理由は分からない。ただね・・」
ジャックはハイゼンの耳元で何かを囁く。
ハイゼンは驚いた声を出したと同時に、胸元へ剣を突き刺した。
「後始末は任せたよ。ああ、あちらも片が付いたようだね。あちらの始末も頼んだよ。」
ジャックは影に伝えるとその場から離れた。
(腕は互角。あとは守るものが、有るか、無いか)
両肩で息をするギルに近づき背中を押す。
ギルは傷だらけになりながらも、愛する者を想い闘った。一方でベンは守るものが無く、ただ自分の剣の腕に溺れた。
その違いだ・・
「影に始末は頼んだから、君も彼女の元へ」
声を掛けると彼は頭を下げ走って行った。
「さてカロリーヌ、私たちも娘の無事を確かめに行こうか!」
左手の薬指と小指に嵌められた指輪に軽く口付けた。




