サルーン国 12 カイ
ケンウッド卿の後を付いて行き通された場所は、王太子殿下の私室だった。自分のような身分が私室へ、しかも王太子殿下の部屋に招かれるなんて。さすがの俺も躊躇していると、
「カイディアン卿はマリエンヌ妃殿下の兄上様であられる、オブランス国王太子殿下の使者で且つマリエンヌ妃殿下の元筆頭護衛騎士だったと伺っております。殿下より信頼に値すると申されておりますので。」
そこまで言われると断れない。後を見ればハリソンさんも頷いている。覚悟を決めるか!
ケンウッド卿がノックをすれば、中から家令が顔を出す。
「ハイル子爵夫カイディアン卿をお連れ致しました。」
「入ってくれ」
中から王太子殿下の声がした。
ケンウッド卿に促され入ると、私室の机で書類に目を通している王太子殿下がいた。
「ハイル子爵が夫、カイディアン・ハイルで御座います。本日はお時間を頂き」
「ああ、堅苦しい挨拶は抜きで。すぐに終わるから座って待ってて欲しい。」
すまない、と言って家令に命じて案内されたソファーに腰掛け、ハリソンさんは俺の後ろに立つ。
お茶の準備が整うと殿下はソファーへと移動して来て家令を部屋から下げた。
今、部屋にいるのは殿下と俺。ケンウッド卿とハリソンさんの四人だ。
淹れたてのお茶を飲む。
「それで、我が妃にはどんな用で会いに来られた?」
疑われてる?一瞬ドキッとしたが殿下より声を掛けて頂いた事で、話しやすくなった。
「実は前回こちらは来た際に、妃殿下の口から王弟殿下の事を聞きました。」
その言葉で俺がマリエンヌ殿下ではなく、王太子殿下に話がある事に気付かれた。やはり聡い方だ。
「勝手ながら少し調べさせて頂きましたが・・」
後ろに控えていたハリソンから封筒を受け取るとテーブルの上に置く。
「先にいま、この国で起きている事をお聞かせ願えないでしょうか。」
「・・卿はいま、どんな立場でここにいる?」
「私はただ、愛する妻に危害が及ばない事だけを考えている夫です。そして後ろに控えている彼も。」
すると殿下はハハハッと笑い出し、
「さすがマリエンヌの元筆頭護衛騎士だね!彼女が言ってた通りの人だ!」
妃殿下が何を話していたかは・・だいたい想像が付く。あの当時の俺は初恋を拗らせていた情けない男だったから。
「わたしも卿と同じだ。愛する妻をただ守りたい、普通の男なんだ。」
この人は信用出来る。そして話も通じる!
元騎士としての感が、この人は大丈夫!と言っている。それならば話そう。
「では殿下。愛する者を守るため隠し事無しで話を聞かせて頂きます。」
「・・ああ、わかった。ケンウッド、オズワルドを呼んで来て欲しい。」
殿下に言われ扉の外へ出たケンウッド卿は、直ぐに一人の男性を連れて戻って来た。
ケンウッド卿は中には入らず外で護衛をすると言って、扉を閉めた。
「彼の名はオズワルド。性は無い。わたしの影だ。」
「初めまして、カイディアン卿。ハリソン卿。王太子殿下に拾われてから影をしております、オズワルドと申します。おそらくこれからは、ハリソン卿と繋がる事が多いと思います。」
そう言って挨拶して来た男は影と言うだけあって、心が読めない男だった。




