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2.夢を駆ける2つの星

「私は…ここに住んでいた人の生き残りです。もう、あなたに隠すことはありません。全てお話します」


 突然のその言葉に、俺は思考が一瞬止まった。玲花がここに住んでいたのなら、なぜ今でも生きているのか。


「私は、ここの生き残りで、『記憶の罪障』も、家族の死も、全て見ました。その後、私を含めた生き残りと、ここに来た人は『記憶の罪障』の置き土産、『ハノ』に感染しました。それは、『ハノ』の感染者以外の様々な人や物に存在を認知されなくなり、体の一部が蝕まれ、大切な記憶も薄れていき、さらにはそのような地獄を永遠に味わなければいけないんです。私は、目が蝕まれ、失明してしまいました」


 その後も玲花は様々な物の説明をした。


「つまり、その『ハノ』で不死になって強制的に生かされているってことか? 最初、玲花に名前を聞いた時に戸惑っていたのは自分の名前を忘れかけていたということだったのか………待て。ここに来た人もってことは、俺もなのか?」


「はい。あなたはまだここに来たばかりなので、どこも蝕まれていないようですが…でも、あなたが元いた世界に行けば、『ハノ』は治ると言われています。私達は、大昔からワールドエンドを脱出する方法を探しているのですが、それには異界転送紙が必要なので、どうしても脱出できなくて……」


 玲花は悔しそうに歯を食いしばる。しかし、俺は玲花の機嫌を良くしようと、口を開いた。


「異界転送紙なら持ってるぞ」


「え…?」


 実は、こんなこともあろうかと、ここに転送される前に異界転送紙を丸めてポケットに入れていたのだ。


「異界転送紙…これで合ってるか?」


「はい。これは確かに異界転送紙です。でも、なぜこれを?」


 俺も詳しくは知らない。これは桂が持ってきたものだ。


「これは…俺が探している友人が持ってたんだが…」


「その友人の名前は…?」


「田村 桂だが…」


 玲花は拳を握りしめ、怒りをあらわにしている。


「彼もここの生き残りです。彼はワールドエンドで唯一、とある神の産物である異界転送紙を見つけました。でも、彼に優しさはありませんでした。彼は誰も見ていない場所であなたと同じようにして、ワールドエンドを脱出し、『ハノ』も完治しました。このことは、記録されている事象を読み取れる世界の記憶の欠片を操作して知りました」


「桂が…ここの生き残り…? でもあいつは、俺と同じでここに行きたがってたぞ? 俺は3人でここに来ようとしたんだ。でも2人は途中で呪文を噛んでしまって、ここに来れなかったんだ」


 玲花は怒りを抑え、応えた。


「彼が…? いや、彼はここをとことん嫌っていました。その噛んだのも、わざとじゃないですか?」


「いや、彼とは長い付き合いだが、嘘をついたことも、みんなを裏切ったことも無かったぞ?」


「そ…そうですか…。と、とにかく、異界転送紙を使っていち早くここを脱出しましょう! ……そういえば、スターチスの花が必要なんでしたよね…」


 そういえば紙は持ってきていたが、花を忘れた。


「でも、この花園のどこかにはあるんじゃないか? さっきから見た感じ、同じ花は少なかったぞ?」


「そうなんです。ここの花は、それぞれの魂の最期の感情によって違うんです。スターチスの花言葉は『変わらぬ心』『途絶えぬ記憶』です。つまり、永久不変の心を持った魂の花を探せば良いわけです」


「でも…どうやって?」


「私の姉…照ノ間 朱華(てらのま あすか)は、厄災によって死ぬ前、私に、玲花が私のことを忘れても、私は玲花のことは絶対に忘れない! と言ってくれました。きっと彼女が死んだ場所、私達の家に行けば、スターチスが咲いているでしょう」


 俺はその言葉を聞いて、希望を感じた。


「じゃあ…早速行くか!」


 いつの間にか、時は夜になっていた。星々が夜空に輝き、花園の光る花を写し出しているようだった。そこはまるで、夢だった。


「えっと…こっちです!」


 玲花は風向きで方角を察知し、玲花と俺は花園を駆けた。遅刻して学校に行ったあの時よりも速く。2人はまるで、夢を駆ける流れ星のようだった。


「ここが…私の家だった場所です。まだここには懐かしい匂いが漂っています。姉は、ここで死にました」


 すると玲花は、匂いでスターチスの花を探す。


「………ありました! これです!」


 玲花はスターチスを指差す。


「魂の花の茎には、その者の記憶の欠片があります。儀式を行う前に、これから、あなたにはしばらく死ぬ直前の姉の記憶を見てもらいます。これで、あなたは全てを知り、全てを理解することでしょう」


「え?」


 玲花は虹色に輝く結晶を俺に向けた。その瞬間、


「ーーーーー」


 いきなり目眩がし、気を失った。急だったが、とりあえず目の前のことに目を向けることにした。気がつくとそこは、栄えた都会のような場所だった。


「お姉ちゃん、見て! スターチスで花の冠を作ったんだ!」


「(これが昔の玲花か…)」


 この頃はまだ玲花は失明していなかった。水色の、綺麗な瞳だった。


「確かに綺麗ね。そういえば、スターチスの花言葉って知ってる?」


 朱華が玲花の身長に合わせてしゃがむ。


「(朱華は花に詳しかったのかな…)」


「スターチスの花言葉は『永遠の愛』や『途絶えぬ記憶』よ。玲花という名前の『花』は、スターチスのことなのよ。私も、玲花のことは死んでも忘れないわ」


 その瞬間、空が切り裂かれ、青い光がワールドエンドを包む。


「何!?」


 裂かれた空からは一人の女性が降りてきた。


「世界の記憶の在り処が世に知れ渡ることは許されない。悪いが、滅んでもらう」


 その女性は空から青い立方体を落とす。それは街を呑み込み、無に陥れていた。


「逃げて!」


 朱華は玲花に指示を出す。だが、その時にはもう朱華の頭の上には青い立方体があった。


「速■■逃げ■振■■返ら■■で!私のこ■は■■■■■■!」


「(これが記憶の罪障…朱華はこうやって死んだのか…)」


 玲花は言葉も発することができず、ただただ逃げていた。振り返らずに。前だけを見て。


「■■■■■■■■■■■■■■■!!!」


 朱華は必死に抗っていたが、やがては呑み込まれ、完全に消えてしまった。


「ーーーーー」


 気がつくと忘却の花園に戻っていた。玲花はもう平らな場所に異界転送紙を広げ、花を摘んで儀式の用意をしていた。


「目が覚めましたか。それでは、いつでもどうぞ」


 少し心を整え、忘却の花園の景色を見返した俺達は、スターチスの花びらを指で押さえた。


「ようやく、この時が…」


 俺達は呪文を唱え始めた。絶対に噛まないように。


「「世界の中心、顕現せよ。我々を隠滅し、其処で再構築せよ。この身を以て、謁見しよう」」


「「極世へ!!」」

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