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その八:現代アートの壁の秘密

 どこかで、変な笑い声がしたような気がした。


「なんだろう、今の声は?」

「さあ、なのです、るっぷ!」


 ふと気がつくと、案内人の魔法使い人形クリスピス・シャーキーズと小熊ぬいぐるみのトッパラッタ・ラッタッターズがいなくなっている。

 どこへいったんだろう?


「シャーキス、知ってるかい?」

「いいえ、気がついたらお二人ともいなかったのです、るっぷ!」


 しかたなく僕は宝石の部屋の通路を逆もどりして、出入り口までいってみた。

 でも、はいってきた所の外は薄暗くて、目を凝らしてもよく見えない。

 どっちへいけばいいのかわからない。


「おーい、案内人の魔法使い人形さーん、ええと、クリスピス・シャーキーズさん、だったっけ?」

「トッパラッタ・ラッタッターズさーん、どこにいるのですか、るっぷりいーぃ?」




 出入り口から移動して、はなれた柱の陰に隠れていた悪い魔法使い人形とひねくれ小熊のぬいぐるみは、びっくり仰天(ぎようてん)、アタフタと足踏みした。


「あいつら、なんで俺さまたちを探しているのだ? せっかく宝石を盗みやすいように、こうして隠れてやったのに! どうして悪い子にならないんだ、グッシィ!?」

「がうッ! わわ、こっちへ来るぞ、がーう、わあッ!」

「グッシッシィ!? よ、よし、宝石を盗まないなら、つぎは食べ物だ。人間なら腹が減ったら、きっと食べ物の誘惑(ゆうわく)にはあらがえないはずだぞ。あの伝説の魔法の森へ、迷い込ませてやろうぜ、グッシッシィ!」


 若い芸術家とピンクのテディベアが、くるっとふり向いた。




 赤と白のしましま模様の帽子と黒マントがチラリと見えた。

 つづいて、茶色いモヘアのぬいぐるみのお尻が、さっと柱の陰に引っ込む。

 僕は柱に向かって走った。


 すると柱の陰から、案内人の二人がサッと飛び出てきた!


「あ、いた! つぎの展示室はどこですか? 暗くてよくわからないから、案内をお願いします」


「グ、グシィ? あー、あの~、宝石を()……見るのは、もういいのでございやすか?」


「うん、きれいだけど、宝石ばかり見ててもしょうがないもの。僕は今日中に帰るから、あまりゆっくりしてられないんだ。もっとほかの美術品も見たいんだ」


「へい、では、ええと~。……現代アートの部屋などは、いかがでやしょう?」


 そういって案内されたのは、体育館のように広い部屋だ。


 がらんとした部屋の中央に、大きな青銅製の薪ストーブが赤々と燃えている。

 室内はものすごく暖かくて、僕はコートを脱いで手に持った。


「るっぷりい? ここには展示品がなにもありませんよ、ご主人さま。あるのはストーブだけです!」


 高い天井は白く、壁や床も地は白いが、そのすべてに、赤い線と緑の線が幾何学模様のように走り、コインくらいの黄色い円が、いくつもいくつも描いてある。


「こっちは新しい時代のクリスマスだね。壁に直接絵が描いてあるんだよ。ほら、白い壁と床がキャンバスで、赤と緑と黄色で絵が描いてあるだろ」


「るっぷりい? 何が描いてあるのですか。棒? 線? まるに三角? この細い線や小さな円が、クリスマスの絵なのですか?」


「そう、ぜんぶクリスマスの色だよ。白は平和。赤は情熱、緑は永遠の生命。またはツリーを表していて、常緑のもみの木の生命力だって。ほかにも、金とか紫などもクリスマスカラーとされているものがあるんだ。ここは三色でクリスマスを表現しているんだね」


 ポフポフポフと間抜けな音がした。

 魔法使い人形クリスピス・シャーキーズが拍手している。


「グッシッシィ! よくご存じで。さすがは若き芸術家でやすな。では、この絵がどんな景色を描いているか、おわかりになりやすかい?」


 僕は壁を見回して、床を眺めた。


「ええっと……。クリスマスツリーの森かな。なんとなくだけど、クリスマスのイメージで、クリスマスツリーに見立てた冬の森を描いているような気がする……」


「るっぷりい。そうなのですか。ボクにはよくわからないのです、ぷう……」


「現代アートって、抽象的(ちゅしょうてき)なものが多いんだ。僕もよくわからないけど、こういうのは自分が感じたままに見ればいいんだって、親方が言ってたよ」


 いつの間にか、魔法使い人形と小熊のぬいぐるみが僕らの後ろに回っていた。

 でも、さっきもそんなふうに、僕らの邪魔(じゃま)をしないようにはなれていたから、おかしいとも思わなかったんだ。


 がうがう!

 グッシッシィ!


 ひねくれ小熊と悪い魔法使いの笑い声がした。


「え?」


 と、僕が背後をふりむく前に……。

 いきなり、ドンッ!、と背中を突き飛ばされた!


「うわあッ!」

「るっぷりーいッ!」


 シャーキスがポーンと飛んで、壁にぶつかり、壁の中に消えた。


「うわ、シャー……」


 キス、と言ったときには、僕もまた壁にぶつかり、そのなかに入り込んでいたのである。


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