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その七:クリスマスの箱の秘密

「るっぷりい? どうしたのですか、ご主人さま?」


「うん、あの二人がいないなって。どこへいったんだろ? 次の部屋へ行きたいんだけど。ここは宝石ばかりだし……」


「るっぷ? でも、このお部屋には、まだまだ見るところがあるのです、るっぷ!」


 僕はシャーキスの後について、さらに奥へ歩いて行った。


 そこにはちょっと珍しい宝飾品の展示コーナーになっていた。


 真珠で作られた雪だるまに、真珠を飾ったまつぼっくりに、七色の宝石で作られたベルのクリスマスオーナメント。

 クリスマスリース型の宝冠が飾ってあって、そのまわりに、いろんな天使と妖精たちの形をしたブローチが、とてもたくさん飾られていた。


 まるでここだけ童話の世界に迷い込んだようだ。


「へえ、トナカイのツノにつける宝石細工もあるよ。おしゃれだね」


「るっぷ。トナカイさんといえば、ニコラオさんがお使いなのでしょうか、ぷい?」


「ちがうと思うな。ニコラオさんは、働き者のトナカイの角に、じゃまになる宝石は付けないよ。あ、あっちに宝石の彫刻がある!」


 それは高さ三〇センチくらいの乳白色の女性像だった。長い髪や裾の長い衣装や青い宝玉の付いた杖などが、クリスマスの女王にすこし似ているような気がした。


「雪の女王をモチーフにしてあるみたいだ。ほら、シャーキス、この彫刻はどことなくあの女王さまっぽくないかな?」


「ぷう……。ボクにはわからないのです! これはどういった方のお人形なのですか?」


 台座の銀のプレートには『雪と氷を司る精霊の乙女:すべてホワイトダイヤモンド製』と書いてある。


「ホワイトダイヤモンドで出来た彫刻だって。信じられないけど。……そういや、女王さまの名前を探さなきゃいけないんだっけ?」


 女王は『なぞなぞ』とも言っていた。女王の名前を見つけたら、拝観料を免除してくれるとも。


「うっかり忘れるところだった。シャーキス、女王さまの名前を探そう」


「るっぷりい。女王さまのお名前を当てるのですか?」


「女王は『名前を見つけられたら』と言っていたから、きっとこの宮殿のどこかに名前が書いてあるんだ。ヒントはおそらく、展示されている美術品だろう」


「でも、ここまで見てきたところに、女王さまのお名前なんて、どこにも書かれていなかったのです、ぷう!」


「ここじゃないかも知れないよ。だから早く次へ行こう」


「るっぷ! ほら、こっちにもつづきのお部屋がありますよ」


「え? あ、ほんとだ。ぜんぜん気づかなかった!」


 僕はシャーキスのあとからそっちの部屋に入っていった。

 そこは箱や入れ物や、木工細工みたいな細工物がたくさん展示してある部屋だった。


「るっぷ? これは何を入れる箱でしょう。空っぽなのです!」


「これは()せ木細工だよ」


 色合いの(こと)なる木を組み合わせ、幾何学模様になるように作られた箱だ。シンプルな作りで、フタはない。僕なら両手を広げれば持てるから、ものすごく大きな箱でもない。


 シャーキスが飛んで、箱の真上から中を覗き込んだ。


 僕は箱の展示台につけられた小さな銀のプレートと,その横にある説明書きを読んだ。


「これは〈ミリーの箱〉だって」


 むかしむかし、欧州にまだ王様や騎士がたくさんいた時代、クリスマスの宴で使われたとくべつな箱だ。


 貴族やお金持ちがクリスマスの大宴会をしているときに、この箱は登場する。

 そして、宴会に参加している人々の間をめぐるのだ。


 宴会の参加者は、自分の前へ箱がきたら、贈り物を入れなければならない。


 たとえば、金貨や銀貨。

 身に付けている指輪にネックレス。

 イヤリングに髪飾り。

 腕輪に額飾り。

 刺繍(ししゅう)した上等な絹のスカーフやハンカチ。

 宴会用の宝石を縫い付けたマントや上着、取り外しができる(そで)などだ。


 それらはあとで貧しい人々の為に使われる寄付となる。


「ここにクリスマスの贈り物を入れれば、その人には幸福の祝福があるんだって! すてきな習慣だね」

 そうだ、僕もなにかステキな小物入れでも作ろうかな。


 そういうミニチェストは昔からあるけど、クリスマス専用の宝物箱というのもいいかもしれない。

 僕は夢中になって箱の部屋を見て回った。




「あいつら、まだ宝石を盗まないのか? まるで宝石には興味が無いみたいだ。なんておかしな人間なんだ、グッシ!」


 宝石の部屋で、柱の陰に隠れていた悪い魔法使い人形とひねくれ小熊のぬいぐるみは、こっそりニザとシャーキスの後を付けて、つづきの部屋の出入り口から、二人の様子をのぞき見していた。


「グッシッシィ! 女王さまはあのガキをもてなせと命じられたが、いやなこった! なんとかいやな目にあわせて、宮殿から放り出してやるぞ~!」


 クリスピス・シャーキーズは声をひそめて悪い笑い声をたてた。


「きらいだ、きらいだ、だいッきらいだ! あんなきれいな赤い蝶ネクタイをした熊のぬいぐるみ妖精なんて、大ウソだ、でたらめな存在だ! 人間がやさしいなんて、ありえないんだ、がーうッ!」


 ひねくれ小熊のトッパラッタ・ラッタッターズは、その場でバタバタ、床を蹴った。でも小熊のぬいぐるみの足だ。おもいっきり蹴ったって、石の床だと音も出ない。


「あんなやつ、持ち主に嫌われて、痛めつけられて、ボロボロになって、捨てられればいいのに! がうううーッ!」


 ひねくれ小熊のぬいぐるみは、ゴロンゴロンと床を転げ回った。


「お、いいな、そのアイデア! 大賛成だ!」


 クリスピス・シャーキーズは手を打ち合わせた。でも、悪い魔法使い人形だって、中身は上等な綿を詰めた柔らかい手だ。ぱふんと間抜けな音しか出なかった。


「グシシ! その願い、俺さまがかなえてしんぜよう!」


「がうッ!? だけどあいつは本物のぬいぐるみ妖精だぞ? それも、本物の魔法使いの、魔法の夢から生まれた魔法の生き物だから、並みの人間よりも魔法を使えるぞ。さっきはああ言っていたが、きっと強いはずなんだ! がうッ!」


 トッパラッタ・ラッタッターズは、ブルリッ、体を震わせた。

 クリスピス・シャーキーズは、ふん! とふんぞりかえった。


「それがどうした? 俺はクリスマス宮殿の番人で最強の魔法使い人形、クリスピス・シャーキーズ様だぞ。しかもいまは女王さまのおかげで、宮殿の中なら人間の魔法使いみたいに、どんな魔法でも使えるんだぞ。あのボウズどもをおどかして、うんとこわがらせて、宮殿中を追いかけ回して、あいつらが女王陛下の名前を見つける前に、泣きながら逃げ出すようにしてやろう!」


「がう! なるほど、女王さまの与えた試練を途中で投げ出し、自分で宮殿から出て行った人間は、女王さまの祝福をもらえない! がう! そしたら二度とここには来られない! そうだ、そうだ、あいつらなんか真っ黒けの(すみ)を食べて、暖炉の(はい)だらけになればいーんだッ、がーうッ!」


 グッシッシィ!

 がーう、がうがうッ!


 悪い魔法使いとひねくれ小熊のぬいぐるみは、またしても悪だくみの笑い声をあげたのだった。


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