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その六:宝石の部屋

  魔法使い人形が先頭に立って案内したのは、元の場所からすぐ右へ一〇歩ほど歩いたところにある部屋だった。


 でも、さっきまで、こんな廊下が見える場所にあっただろうか。


 まるで急に通路と部屋が現れたみたいだと、僕は思った。


「さて、この宮殿へいらっしゃるお客さまは、みなさま、美しい物にご興味があおりの方ばかり。なかでもいちばん人気が高いのが、こちらの部屋でございやす」


 真昼のように明るい空間に、クリスタルで作られたような展示台が並んでいる。


「ここは、世に二つとない宝石や、宝石を使った美術品が展示してある部屋でございやすです、ハイ」


「がうッ! さあ、入って、ゆっくりご鑑賞しやがれ、がーうッ!」


 クリスピス・シャーキーズとトッパラッタ・ラッタッターズは、僕らが部屋に入ると、すすすー、と僕らからはなれていった。


「なんだかまぶしい部屋だね、シャーキス」


 ざっと見回しただけでも、宝石の輝きで目が眩みそうだ。


 大きなルビーの指輪はヒイラギの赤い実と葉を()してある。

 二つの繊細なレース模様のような雪の結晶のなかにはめ込まれた、海洋のしずくのようなサファイヤのイヤリング。


 ツリーの緑をイメージしたエメラルドの腕輪。


 太陽を思わせる黄色のカナリヤダイヤモンドのブローチ。

 虹の七色に光るオパールの首飾りは、クリスマスリースを(かたど)ってある。


 信じがたいほど大きな宝石が付いた宝飾品が、数え切れないほどの輝きをはなっていた。


「すごいや、すべてクリスマスのモチーフでデザインされてる!」


「へい、さようです。ご覧のように、展示品はケースには入っておりせんです。すべての展示品がむきだしで、手に取ってさわれるようになっておりやす」


 僕の後ろから、クリスピス・シャーキーズの声が聞こえた。


「それはなぜですか?」


 僕は不思議に思って訊ねた。


 宝石なんかの展示品は、ふつうは厳重(げんじゆう)な分厚いガラスのケースで展示されているものだ。


 クリスピス・シャーキーズは、えへん、ともったいぶって、すぐそばの金とダイヤモンドの鎖を手に取った。


「はい、そこはこちらの女王陛下の方針(ほうしん)で、お勉強に来られた芸術家の方々が、直接手に取って、このように、じっくり観察できるようにとのご配慮(はいりよ)でございやす。そのほうがより勉強になるからと……!」


「なんてありがたいんだろう。たしかに手に取って見られれば、よくわかるしね」


 僕は女王さまの親切に感動した。

 もっともここは普通の美術館ではなくて、魔法の世界のどこかにある宮殿だ。きっとドロボウが入る心配をしなくていいから、そういう展示ができるんだろう。


「るっぷりい。でもご主人さまは見ているだけですね。さわらないのですか?」


「うん、こうして見れば、デザインの勉強になるもの。それに宝石はね、さわると手の(あぶら)がつくから、手入れがたいへんなんだ。だから自分のものでない宝石には、さわっちゃだめなんだよ」


 展示室の中央には、無数のダイヤモンドがまぶされたように光輝く宝冠が、ひときわまぶしい光を放っていた。


「るっぷりい! すごい光る石がたくさんあるのです。ご主人さまもときどき持っている石とそっくりですね」


「うん、ここにあるのはものすごく大きいけどね」


 宝飾品のほかにも、宝石を使った美術品がたくさんある。


 僕の身長ほどもある紫水晶の置き時計に、青い花瓶に生けられた青いバラの花。花瓶も花も宝石のサファイヤだ。

 薄いヒスイを磨いたチェス盤の、チェスの駒は、白いヒスイと緑のヒスイ。

 真珠で飾られた大皿に盛り付けられたリンゴとイチゴとザクロの実は、真っ赤なルビーの細工物。


 僕はエメラルドグリーンの小さなツリーの置物に顔を近づけた。


 台座に留められた銀のプレートには『エメラルドのクリスマスツリー』と(きざ)まれている。

 小さいといっても、僕のこぶしよりはるかに大きなエメラルドのかたまりを彫刻して、小型のクリスマスツリーにしてあるのだ。


 エメラルドの色は澄んでいて、キズもくもりもない。透明度は申し分なく、宝石としては極上だろう。


「すごいや。これが全部本物の宝石なら、お金に換算できない価値だろうね」


「るっぷ? こんなにきれいなのに、この宝石は偽物なのですか?」


「ダイヤモンドやエメラルドが大きすぎるもの。こんなに大きくてキズがまったく無い宝石なんて、この世には存在しないよ」


 と、僕は単純に、宝石にしては大きすぎるから、そう思ったのだけど……。




 悪い魔法使い人形とひねくれ小熊のぬいぐるみは、そろそろそろ~り、ニザとシャーキスからはなれた。


 若い芸術家とピンクのテディベアのぬいぐるみ妖精は、きれいな宝飾品に夢中。

 二人の案内人がはなれたことに、ぜんぜん気づかない。


「がううっ! バカバカ、バ~カなヤツらだ! あれはぜ~んぶ本物なのに! がうううう~っ!」


 じゅうぶんはなれた水晶の柱のかげで、トッパラッタ・ラッタッターズは空中でクルクル回転し、クリスピス・シャーキーズは杖を振り回して大笑いした。


「グシグシ、グッシッシィ! どうだ、あいつらも、そろそろ悪い心がむくむくと湧いて出てきただろう。たいがいの人間は、この部屋に入ってたくさんの宝石があるのを見たら、ちょっくら盗んで、持って帰りたくなるもんなんだ。いままで何人の自称芸術家が、この部屋でつまずいて、宮殿から放り出されたことか!」


「うがああーッ! あんなやつら、女王さまにきらわれるといーんだッ、がうッ!……う?」


「なんだ、どうした?」


「がうう……。あいつ、なぜかキョロキョロしてるぞ?」





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