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その二:クリスマスの宮殿

 空翔(そらか)ける八頭のトナカイが引くソリに乗せてもらい、空を飛ぶこと十五分。


 僕は晴れ渡った冬空の下、地平線がうすいオレンジ色の光で染められた雪の大平原を見下ろしていた。

 どこまでも純白にして雄大(ゆうだい)。人家はどこにも見当たらない。


 やがて、ポツンと灰色の点が見えた。


 最初は雪と氷の結晶か、大きな岩かとも思った。

 近づくにつれ、それがとても大きな建築物だとわかった。

 広い敷地は、周囲をぐるりと高い(へい)に囲まれている。その四隅には、ひときわ高い水晶の尖塔(せんとう)がそびえていた。


 青味を帯びた水晶の塔は、真ん中の方にも七本そびえており、陽光に(きら)めいた。


 水晶塔にかこまれて、お城があった。まるで切り子ガラスの細工みたいなお城だ。下のほうは、左右に大きくひろがる大宮殿となっている。それはさながら水晶のかたまりを彫って造られた巨大な鳥が、とてつもなくおおきなその翼を広げたような形だった。


 宮殿の真上で、ニコラオさんはソリを大きく右へ旋回(せんかい)させた。


 城壁は氷の柱が何本も連なって壁になっている。その内側には城のほかにも立派な館がいくつかあり、さらにその周辺にはもっと低い家屋もたくさん建ち並んでいる。

 城の後ろがわは庭園だ。緑の池で白鳥が泳ぎ、小さな森まである。


「わあ、すごい! どこかの王様の宮殿ですか?」

「そんなものかな。ここには〈クリスマスの女王〉が住んでいるんだよ」


 ソリはゆっくりと空からくだり、大宮殿の正面玄関で停車した。


「さて、ここからは一人で行きなさい」

「ニコラオさんは行かないんですか?」

「きみは美術品の鑑賞に来たんだ。一人でじっくり見て回れる方がいいだろう」


 それもそうだと、僕は納得した。


「いや、待ちなさい。きみの友だちのシャーキスは一緒のほうが楽しいかな?」


 ニコラオさんがつぶやくと、

 ポンッ! と僕の真上でポップコーンが(はじ)けるような音がして、


「るっぷりいッ!」


 ピンクのテディベアが出現した。


 ぬいぐるみ妖精のシャーキスだ。

 僕が始めてデザインから仕上げまで一人で作り上げたぬいぐるみ。


 どういうわけか魔法の命が宿ってぬいぐるみ妖精になっちゃったけど、いまでは僕の大切な親友にして相棒(あいぼう)である。


「やあ、シャーキス」

「おはようございます、ニコラオさん。お久しぶりなのです、るっぷ!」


 シャーキスは上空へポーンと飛びあがり、くるりと回転して降りてきた。


「この美術館はとても広いんだ。ニザくんと一緒に回ってくれたまえ」

「るっぷりい! わかりました! おまかせください!」

「やはりぬいぐるみ妖精はたよりになるね。さあ、二人とも楽しく過ごしておいで。日が沈む頃に迎えに来るからね」


 僕らはニコラオさんのソリを見送った。


 それから僕とシャーキスは、どこまでも青白く透明な宮殿の、大きな両開きの扉の前に立った。


 扉の右側にはヒイラギの葉と実で作られたクリスマスリースがあり、その中に吊された木製プレートには詩が彫刻されていた。


『星のしずくと光の宮殿

 その輝きはダイヤモンドのごとく

 (なれ)こそはクリスマスの女王』


「シャーキス、ここは星のしずくと光の宮殿だって!」

「るっぷりい! すごい建物ですね。まるで雪と氷でできたクリスマスツリーみたいです! この建物がクリスマスの女王さまなのですか?」


「この宮殿の美しさはクリスマスの女王のようだという意味だね。ここに住んでる女王さまはべつにいると思うよ」


 僕はドアに付いている雪の結晶みたいな六角形のノッカーを鳴らした。


「おはようございます。ニコラオさんのご紹介で、美術品を見せてもらいに来ました」


 僕はちょっと緊張していた。


 だから、物陰に隠れてこっちを見ている怪しい二人の気配には、ぜんぜん気づかなかったんだ。




 大宮殿の正面玄関の左のほう、ヒイラギのひくい茂みの陰から、その二人は(のぞ)いていた。


「グッシッシィ! この俺さま、偉大な魔法使い人形のクリスピス・シャーキーズさまに気づかないなんて、芸術家が聞いて(あき)れらあ!」


 魔法使いの星模様の帽子と長いマントコートを着た魔法使い人形は、ぎゅっと肩をすくめて笑った。両目のまわりにピンク色の歯車(はぐるま)みたいな模様があるので、まるでピンクの歯車形のメガネを掛けているみたいだ。その大きな目を、ギョロリ、動かした。


「とんだボンクラどもが来たもんだぜ! なあ、トッパラッターの?」


 言いかけられた小熊(こぐま)のぬいぐるみ人形は、ぴょ~んッと跳ね上がった!


「がうがうがうッ! きらいだ、きらいだ、だいッきらいだ! あんな自分の名前を持った生意気なピンクのテディベアなんて、おいらはだいっきらいだッ!」


 小熊のぬいぐるみ人形は、魔法使い人形の半分もない。ふわふわした茶色のモヘアの布製の、つぶらな黒い目。そんな可愛い顔で「がうぉーッ!」と大平原のライオンさながら、しゃがれた雄叫(おたけ)びをあげた。


「おお、俺さまと意見があうじゃねーか。どおでえ、トッパラッタ・ラッタッターズよ? どうせ(われ)らが女王様はあいつらを甘やかすんだ。だから俺さまと協力して、あいつらをちぃっとばかし、痛い目にあわせてやらねえかい?」


「がうッ! そんなの大賛成に決まってる! がうがうッ! おいらだって意地悪してやるんだ、が~うッ!」


 空中に飛び上がったひねくれ小熊のぬいぐるみは、クルクルッと空中回転した!


「グッシッシィ! 俺さまだって、あんな見るからに甘ったれたガキは、だい・だい・だいの、だいっきらいだよ!」


 悪い魔法使い人形は魔法の杖をふりまわした。魔法の杖の先端からは、魔法の光がキラキラと吹き出し、空気に溶け消えた。


「グシシ! ああいった生意気なこどもは、なんでも自分の夢を叶えられると思ってる傲慢(ごうまん)のかたまりで、まったく手に負えないものなんだ! さあ、俺たちで世の中というものを、しっかり教えてやろうぜ!」


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