その十七:星冠の白いフェニックス
「るっぷりい! ご主人さま、僕らもクリスマスの宮殿へ帰りましょう」
クリスマスの宮殿へつながる扉は、僕らの予想通り、ホワイト・ツリーの裏側にあった。
「そうだね。――あ、そうだ。女王さまの名前探しもまだあった!」
「るっぷーい、この庭園にはヒントらしいものはなかったのです、ぷう!」
「うん、いや、ここにもヒントはあるんだけど、なぜそれが女王さまの名前とむすびつくのか、その理由を説明しないとだめだから」
「るっぷ? その理由とはなんなのですか?」
「女王さまと、このクリスマスの宮殿の成り立ちに関係あるんだよ。僕はそう考えるのが正しいのかな、と迷っているところなんだ」
そのとき、僕らの上のほうで、サッと光が差した。
「るっぷ! ご主人さま、ツリーのてっぺんが光ってます!」
巨大なホワイト・クリスマス・ツリーの頂に飾られた六つのツノを持つ星が、白銀に輝いていた。それは白い太陽さながらに、まあるくふくらんで、みるみるうちに、雪と氷の結晶のような白い卵になった。
卵がヒビ割れた。そのすきまから、白い炎が吹き上がる。
割れたカラをも燃やし尽くして、燃えさかる白炎から生まれたのは、純白のフェニックスだ。頭に十二の星飾りのついた宝冠をいただいている。
「すごいや、幻鳥フェニックスだ」
「るっぷりいッ! 本物なのですか!?」
「もともとお話の中の幻の鳥だから、本物といえば本物だし、このホワイトツリーを作った人の想像だといえば、そうだということさ」
「なんだか難しいのです、ぷう!」
白い炎をまとった巨大な幻鳥フェニックスは、純白の翼をひろげ、天を仰いだ。
ロッペリート!
雪は踊り、風は歌う
この世でもっともさいわいなる
星のしずくと光にかざられし宮殿の乙女
汝こそはクリスマスの女王!
「るっぷ! 大きな鳥さんが歌っています。ロッペリート! ふしぎなひびきなのです! これが女王さまのお名前ではありませんか?」
「いや、ちがうと思うな。詩は女王さまのことだけど、ロッペリートは詩の題名だよ。昔、ドイツの詩人がこの宮殿を訪れた際に、クリスマスの女王を称える詩を捧げたんだって。ダンスと詩を意味するらしいよ」
「るっぷりい? ご主人さまはどうしてそんなに詳しいのですか?」
「ほら、ここのプレートにホワイトツリーの解説が書いてある。雪と氷のツリーはフェニックス付きの自動カリヨンだって」
「るっぷ? カリヨンとはオルゴールみたたいなものですか?」
「そうだね、ベルと鍵盤楽器を組み合わせたもので、時計塔なんかに設置する自動演奏楽器だよ。すごいね、あんな大きなフェニックスの仕掛け人形まで組みこんであるなんて。あれもきっと〈捧げ物〉だよ」
自動カリヨンが白いフェニックスを生み出すのは、真夜中の午前零時。日が新しく変わるとき、フェニックスもまた新しく生まれるのだ。
だれがどうやって造ったのだろう。
そもそも、外から持ってこられるものじゃない。
「そうか、壁に描かれた現代アートも、〈捧げ物〉として、この宮殿のあの壁で製作されたんだ」
もしかして、〈捧げ物〉とは、ここで造ることができるもの……?
なにかがわかりかけた気がしたが、うすくまとまりかけた思考は、午前零時のベルの音色にかき散らされた。
白いフェニックスは唄っている。
ミリー!
ミリー!
汝こそはクリスマスの女王
情け深しクリスマスの箱の女王!
唄いおわった純白のフェニックスはツリーの頂から飛び立ち、夜空のどこかへ消えていった。
「シャーキス、いまのが女王さまの名前だ! やっぱりミリーでまちがいない」
「るっぷ! ボクもわかりました! 〈ミリーの箱〉のことですね!」
僕が確信をもってシャーキスと喜び合った、つぎの瞬間。
周囲から音が消えさり、景色が変わり、僕らは女王ミリーの玉座のまえにいた。