その十六:少し早いクリスマスの贈り物、または友だちになった記念のプレゼント
じたばたじたばた、ゴロンゴロン!
ひねくれ小熊のぬいぐるみは、ものすごい暴れようだ。
「るっぷりい、きみはボクがうらやましいのですね、ぷう!」
「そうか。きみはクリスマスプレゼントをもらったことがないんだね」
ぬいぐるみは普通、クリスマスの贈り物をもらったりしないけど、気の毒な境遇のぬいぐるみだ。
シャーキスと僕は目を合わせた。
「ご主人さま、ちょっとご相談があるのです!」
「うん、僕も考えたけど。もしかして、シャーキスも?」
「あの方に贈り物をあげてはいかがでしょう!?」
「うん、それはいいアイデアかもしれない。でも、何を贈れば良いだろう? いま贈り物にできるような物は持っていないし……」
「るっぷ! これをおゆずりしてはいかがかと思うのです」
シャーキスは赤いリボン・ネクタイをはずした。
「いいのかい?」
「ボクはお家に帰ったら、ご主人さまに新しい物を作っていただけます。もうすぐ新しいクリスマスなのです!」
「ありがとう、シャーキス!」
ひねくれ小熊のぬいぐるみの首回りはシャーキスと同じくらいだから付けられるはずだ。
「るっぷりい! トッパラッタ・ラッタッターズさん、贈り物なのです!」
シャーキスは首から外したリボン・ネクタイを、トッパラッタ・ラッタッターズへ差し出した。
「がう! なんでえ、お情けなんか、いらねえやい!」
「少し早いけれど、クリスマスの贈り物なのです。また、ここでボクたちが知り合った、記念の贈り物でも良いではありませんか? るっぷりい!」
「がう……。そんなにきれいなリボン・ネクタイを……ほんとにおいらがもらっても、いいのか?」
「るっぷりい! もちろんなのです! さあ、どうぞ!」
リボン・ネクタイはトッパラッタ・ラッタッターズに、あつらえたようにぴったりだった。
「がうッ! どうだ、似合うか、がうーッ!?」
「とってもお似合いなのです! そういえば、どうしていつも、『がうーッ!』と言うのですか?」
「がう! しかたないやい! おいらの発声器官は壊れているんだ、がう!」
「あ、そうだったのか。よし、それはあとで直しちゃおう! ついでに布も取り替えないかい?」
じつをいうと、小熊のぬいぐるみはあちこち傷んでいるのが気になっていたんだ。
ここはクリスマスの宮殿で、女王は偉大な魔法使い。
小熊のぬいぐるみを魔法で元の姿に戻していないのは、何か意味があるのかな……。
「がうう!? そんなこと、できるのかい? がう?」
「おいおい、待ってくれ。そんなことをしたら、俺さまたちが、俺さまじゃなくなっちゃうんじゃないか?」
魔法使い人形クリスピス・シャーキーズは目をまん丸くして、歯をむき出した。
「だいじょうぶだよ。どんな工夫を凝らしたって、きみたちの個性はきみたちのものだ。きみたちは手作り品の、この世に二つとない人形なんだ。だから、どんな改良をしたって、きみたちがきみたちであることは、けっしてかわらないんだよ。だって、きみたちは本当のオリジナルだからさ」
魔法使い人形クリスピス・シャーキーズは、僕の知る限り、似た人形は市場に出回っていない。
手作りの一点物。それもかなり手の込んだ作りだから、おそらくは人形師でも、一流の人形師による作品だ。
あの変わった顔は、作者がこれまでにない新しい人形を作りたくて、工夫を凝らした試みなのだろう。残念ながら、女の子が喜ぶ人形にはならなかったけど、じゅうぶん味がある愉快な顔の人形だと僕は思う。
昔は斬新すぎて奇妙だと思われたものでも、最近の流行なら、最先端のデザインとか、ユニークでおもしろいと、評価されるかもしれない。
ひねくれ小熊のぬいぐるみ、トッパラッタ・ラッタッターズの方もそうだ。大きさやデザインは、赤ちゃん向けでじゅうぶんいけているが、汚れた状態では赤ちゃんにはさわれない。
では、何度も洗濯できるように工夫したら、どうだろう。
じょうぶなタオル地にして、丸洗いできるよう、詰める綿にも工夫して、飾りボタンは付けない。リボン飾りはちょっとやそっとじゃ取れないように新しい工夫のものをしっかり縫い付ければ、きっと問題解決だ。
「クリスピス・シャーキーズの友だちになりたい子どもはきっとこの世界のどこかにいるし、トッパラッタ・ラッタッターズが何度も洗濯されてきれいになって、赤ちゃんが大人になるまで皆で大事にしてくれる、そんな家がきっと見つかるよ」
二体の人形はしずかになって、フッと消えた。
「あれ?」
「るっぷりい?」
僕とシャーキスはホワイトツリーの裏側まで探したが、悪い魔法使い人形とひねくれ小熊のぬいぐるみはいなかった。
僕はなんとなく、女王さまが僕らの様子を見ていて、あの二体は僕らより一足早く、クリスマスの宮殿へ呼び戻されたのだろうと思った。